君と最後の夜の花

「それ伝えたくてずっと待ってた。急に言われても困るよね、それに俺となんて行きたくないか、」


先程の笑みとは打って変わって何かを押さえつけるような悲しい表情でぎこちない笑みをこぼしていた。
こんな顔、久しぶりに見たな。
当時はこの顔で笑う彼を見てそんな笑顔じゃなくてもっと心から笑えるようにしてあげたい、なんて思ったっけ。

なんだかいたたまれない気持ちに襲われる。
彼と花火を見ることは、気持ちを切り替え切れてない私にとって気が弾むことでは無いが、嫌ではない。
むしろ彼はきっとあの時のことなんて今更どうとも思っていない。ここで意識してるのは私だけだ。ここで断って今後の仕事で気まずくなる事も避けたい。

それに、最後の花火の記憶があの悲しい思い出なら、状況は違えど彼とちゃんと「綺麗な花火」を見た記憶にしたい。

重苦しくなった空気を突き破るように私はOKを出した。
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