夏、コンビニ、アイス
長屋くんは溶ける気配のないあずきバーを右手に掲げながら、膝の上で組んだ腕に頭を乗せた状態で私の後頭部に視線を送った。
「何?」
「前から思ってたんだけど。かのーちゃんの、それ。バイト仕様?」
長屋くんは私を“かのーちゃん”と呼ぶ。
加納 ヒナだから。
下の名前で呼ばれることが多い私にとっては、何だか少し新鮮。
「それって……これ?」
視線の先に何があったか。
脳内で思い浮かべると、頭を軽く左右に揺らした。
おそらく後頭部でひとつに結んだ髪のことを言っているんだろう。
「うん。それ」
「バイト、飲食店だから」
私がそう答えると、特に何か言ってくる訳でもなく、ふーんと言って顔を正面に向き直した。
「え…なん、ですか」
意味あり気な態度に、何だか急に照れ臭くて敬語になった。
「ぶっ、敬語やめ」
「だって。長屋くんが」
「俺?何も言ってないけど」
「だからだよ!似合うとか、似合わないとか、言う流れでしょ…」
私は残り少なくなったバニラアイスを見つめながら、ごにょごにょとそう言った。
なんだこれ。
まるで目の前の人に、恋してるみたいな。
そんな気持ちにさせてくる。
バイト終わりの夏の夜って、恐ろしい。
「似合うっていうか…さ」
長屋くんは一歩分、横に。
肩と肩が触れ合う距離に、近付いた。