浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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 客間へ近付くに連れて寒さを感じていないのに、身体がカタカタ震えはじめた。チェルは私にしがみ付き、何かに怯えている。

「チェル……大丈夫よ」
「うん……」

(扉の外まで、魔王の心臓のカケラの力が漏れているの? そして、その未知の力に恐怖している?)

 言い合う中の二人を止めるために、開けなくてはならない扉を開けて欲しくない。その扉を開けてしまったら、未知の力に負けてしまいそうで怖い。シシとテトもそうなのか、ゴクリと息をのむ音が聞こえた。

(彼らも落ち着いているじゃない、まさか、恐怖に足が進まない?)

 だが意を決したテトがドワノブを回して、客間の扉を開けた。

「あのお二人とも、外まで声が聞こえていますヨ。キャロルとお嬢さん……キャロルは大切なシアをそんな所に放置して、何をしていル?」

 歪みあっていた、二人はテトの登場で言い合いが止まり。帰ってきたと言わんばかりに、ロローナは瞳に涙を浮かべてテトの側に行こうとしたが、シア、テトの側近に止められた。

「ちょっ、離して、テトが私のために来てくれたの」
 
「そんなわけないわ! ……テト様、シアとは何でもありませんわ。でも、どうして? テト様はわたくしの話を聞いてくれず、別の女性を連れてくるのですか?」

 見つめるキャロルに、テトは。

「前に、キャロルの部屋でシアと二人で過ごしていると、メイドが話していタ。それも一度だけではなく何度もダ!」

 キャロルはテトが何のことを言っているのかわからず、首を傾げあっ、と何かに気が付き微笑んだ。

「テト様、その話はメイドの嘘です。わたくしシアと二人でいたのではありません、彼の妹さんに刺繍を習っていただけですわ。テト様に喜んでもらいたくて」

 だとすると、メイドの嘘ですれてしまい約五年も誤解していた、テトは瞳を大きくした。

「すみません……テト様に伝えたのですが。私の話を聞いていなかったのですか?」

「き、聞いていたが、二人きりだと聞いテ……部屋へ覗きにいったとき、二人で楽しそうに笑っていたかラ」

「テト様お忘れですか、私の妹は……ケガて歩くことができません。いつも魔法鏡を置いて、三人で話していました。それも伝えたのですが……」

 これはテトの確認不足。

 ――メイドの話に踊らされた、それだけ、テトさんは婚約者のキャロルさんを、真剣に想っているから生まれた誤解。

「三人でか、すまなイ……キャロルとシアの話ではなく、他人の話を信じた僕が悪かっタ」
 
「いまさら謝っても許せませんわ。これからわたくし、テト様にタップリ甘えますから……受け止めてください」

 そう言いながら、真っ赤な頬で伝えた婚約者のキャロルさんが可愛い。これで二人の誤解が解けても、まだ終わっていない。あとは連れてきたロローナさんと、彼女が持ってきた魔王の心臓のカケラをどうするからだ。

 そのカケラはこの客間に入ってから『お前、恨んでいる奴がいるだろう』『そいつに復讐を、余としないか』と、黒いオーラを放ち「私?」に語りかけてきていた。

(誰にも聞こえていない様だから、私によね……)
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