浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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 ――よし、これで見られて困る人はいないと、客間で私は杖を取り出した。私が杖を手にした途端、カケラは自分が消されるとわかり慌てだす。

《待て、待て、余を消すとお前の恨みは晴れんぞ》

「まだ言うのですか? 先ほどから私に恨みなどはないと、何度も言っています。いい加減にしてください――!」

《そんな事はない……余には見える。お前に中に、あの女へ対するわだかまりがある事を》

 ――わだかまり? まあ、ロローナさんと森にルールリア王太子殿下が来ているから……チェルの事もあるから、気にはしているけど。もう何年もたった昔のこと、ロローナさんに対して何にも感じていない。

 私は2度と、あの場所へは戻らない。
 カサニ森で、しずかに家族と暮らす。

「だから、あなたが言う事は全て見当違い。私はそんな言葉に、惑わされたりなんかしない!」

 杖を構え、ありったけの魔力を使い「浄化魔法」を発動した。私の浄化魔法が効き、ピキピキと音を出して魔導具のランタンにヒビが入り、魔王の心臓のカケラを浄化する。

《グヌヌ……余はまだ消えぬ》

「おとなしく消えなさい!」

 カケラは浄化される前に《まだ一つ浄化されただけ、余はいずれこの世に戻ってくる。なにせ人間は恨みを抱えて生きているのだからな! ガハハハッ》と笑い。魔王のカケラが一つだけではないと告げ、消滅した。

 残ったのは、ひび割れたランタンと真っ白になった抜け殻のカケラだ。シシとテトさんは何が起こったのか分からず、魔王の力が消えたことに驚いている。

「アーシャ、何をやった?」 
「何を、って、カケラを浄化魔法で浄化したわ」

 と、微笑んで返した。

「ほんとうダ。魔王の脅威を感じなイ」

「また安心するのは早いわ。魔王の心臓のカケラは消えるとき、一つじゃないと言っていた」

「ああ、そうだろうな……」

 はじめから、シシ達はカケラだと言っていた。
 だが、何処に他のカケラがあるのかわからない「いまは、目の前の脅威が去ったことに喜ぼウ」と、テトさんは嬉しそうだ。

(彼はこれから婚約者を大事にするから、森に出てまで、人を攫う事はしないと思う)

 ふうっ。なんだか呆気ない終わりのような気がするけど、私たちの浄化の旅もここで終わり。また瘴気が発生するのは5年後になるのかな? だけど、この国で森に瘴気が発生しても、私は動かない。

 これはこの旅に出る前にした、シシとの約束。

「シシ、チェル、終わったわ。ここを出たら隣町でお風呂に入って、私たちの森へ帰りましょう」

「ああ、帰ろう」
「パパ、ママ、帰ろう!」

 眠らせた、ロローナさんを置いて帰ろうとした私たちを、テトが呼び止める。テトさんはマキロの森へ戻るなら、一緒に連れていって欲しいのだろう。

「頼ム。今度、ここへ訪れたらもてなス」
「わかったよ」

 仕方がないと、彼女も連れて私たちはマキロの森へと戻って来た。着いた場所は観光地となっている滝のところ。彼女を近くのベンチに寝かせて、眠りの魔法をといた。
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