浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。
15
静かなケーキ屋に音を立てて入ってきたのは、鎧を着けたガタイのいい男達。騎士? いや騎士とは違う鎧と体の身のこなし、彼らはこの街の冒険者だ。
シシも気付いたらしく、フッとため息を漏らした。だが、ガタイのいい男達がシシカバの大食堂、酒場ではなくケーキ店に来るなんて不思議に思い、彼らを気付かれないよう観察した。
「お前ら、知っているか? ここの甘辛い肉を挟んだサンドイッチが美味い!」
「ああ、知っているよ。安い割に量も多いし、コーヒーは絶品だ」
「ケーキも美味いよな」
彼らはそう話し、店で人気の照り焼きチキンサンドとコーヒーと食後にケーキを注文した。やはり前世でも、今世でも、甘辛い照り焼きは誰もが好きな味だ。
ガランゴロン、ガランゴロン。
またケーキ屋の扉が乱暴に開かれ、黒いローブの男が息を切らして駆け込んできた。
「おい、みんな! これを見ろ!」
そのローブの男性は街で配られていたのか、手に号外を持っていた。その号外を見て「なんだ、なんだ」と、店の店主と店員は注文の品と一緒に冒険者のテーブルに集まり、男が持ってきた号外を眺めた。
……そして「またか」と。ため息混じりの声が聞こえる。
「この前は北の方だったよな、今度は南に瘴気によって魔物がした大型の魔物が出たらしい……」
(今度は、南に大型の魔物?)
「記事に国の騎士団、腕に自信がある冒険者たちが討伐に向かったが……聖職者、魔法使いの回復魔法。錬金術、薬師のポーションが間に合わず全滅した? おいおい、騎士団もやられたのか!」
この話に店の中がザワザワしだし「今年に入って、この国では今何が起きている?」と、みんなは口にした。
一人の男が、号外の記事を指差した。
「号外の下を見ろよ! 大型魔物の話よりも、前王太子妃様を探す記事がデカデカと載っているぞ! クソッ! 王族は離縁した前王太子妃様を何年も探すんじゃねーよ! もっと強い冒険者か、よその国から瘴気を払える神巫女、聖女を呼んだほうがいいんじゃないのか?」
「そうだ、あんな事があったんだ……有能な、前王太子妃様が戻るわけがない!」
みんながウンウン頷く。
(あんなことがあった? 嘘。王都より遠いシシカバの街の人にまで、ルールリアの浮気の話が知れ渡っているの?)
いや、もう、かれこれ五年もの前のことだ、記者が真相を調べて記事を書いたのかも。フウッと小さくため息を吐くと、シシは私の手に「平気か」と手を重ねた。
それに私は「平気だと」頷く。それを真似して、チェルも背伸びをして小さな手を乗せた。大丈夫――いまの私には大切な可愛い息子のチェルと、頼りになる旦那様のシシがいる。
「前王太子妃様は働き者で、立派な聖女様だった。あの方がいたからこそ、このシシカバの街も平和になった。いまの今まで平和だったのはあの方の力が残っていたからかもな」
そうだな、と。冒険者達、店の店主、店員は今度は深いため息をついた。
しかし、当時の私は一度も聖女だと呼ばれたことはない。だけど私が城を出て、浄化しなくなって五年が経ち。カサロの森以外にも瘴気が溢れ、大型の魔物が出現するようになった。
前世、読んでいた小説の世界で私、アーシャはルールリアとの婚約破棄後、出番がないと言うか、いっさい物語に名前も出てこない。次の章はルールリアとロローナの結婚までの話。
だけど物語が代わり、私はルールリアと学園卒業後に結婚をした。そして七年後にあらわれたヒロイン、ロローナと浮気をされて離縁した。内容はかなり変わっているけど、脇役で悪役の私は表舞台から退場した。
(確か新しい章では結婚前の二人に大事件が起こる。何かの封印が解かれた? ……王太子妃となったロローナに隠された力が……!っと、あらすじに書いてあったかな?)
「この物語の新刊が出るのね、予約しなくちゃ」と、本の予約をしたが、発売日前にいろいろあって私は小説の続きは読めていない。
本のあらすじから見て、王太子妃となったヒロイン、ロローナに隠された力がもし聖女の力だったら。国中の森に瘴気が溢れ、大型の魔物はいない。
――まだ、彼女に隠された力が芽生えていない?
そうなら。仕方がない物語が変わってしまった、だとか悠長に話しをしていられない。今回、魔物の討伐に出た、多くの人が亡くなっている。
もう、私の出番は終わったのだとか。
離縁した私には関係ないだとか、傍観している場合じゃない。
(いいえ……ここは焦らず。まず、シシに相談しなくちゃ)
店内は冒険者の一人が持ってきた、号外で賑わっている。
私はそれを見渡し。
「さあ、帰りましょう」
と伝えた。
「ああ、帰るか」
「パパ、抱っこ」
夕飯に照り焼きチキンサンドと、苺のケーキを三つ買って、ローレルのケーキ屋をあとにした。
シシも気付いたらしく、フッとため息を漏らした。だが、ガタイのいい男達がシシカバの大食堂、酒場ではなくケーキ店に来るなんて不思議に思い、彼らを気付かれないよう観察した。
「お前ら、知っているか? ここの甘辛い肉を挟んだサンドイッチが美味い!」
「ああ、知っているよ。安い割に量も多いし、コーヒーは絶品だ」
「ケーキも美味いよな」
彼らはそう話し、店で人気の照り焼きチキンサンドとコーヒーと食後にケーキを注文した。やはり前世でも、今世でも、甘辛い照り焼きは誰もが好きな味だ。
ガランゴロン、ガランゴロン。
またケーキ屋の扉が乱暴に開かれ、黒いローブの男が息を切らして駆け込んできた。
「おい、みんな! これを見ろ!」
そのローブの男性は街で配られていたのか、手に号外を持っていた。その号外を見て「なんだ、なんだ」と、店の店主と店員は注文の品と一緒に冒険者のテーブルに集まり、男が持ってきた号外を眺めた。
……そして「またか」と。ため息混じりの声が聞こえる。
「この前は北の方だったよな、今度は南に瘴気によって魔物がした大型の魔物が出たらしい……」
(今度は、南に大型の魔物?)
「記事に国の騎士団、腕に自信がある冒険者たちが討伐に向かったが……聖職者、魔法使いの回復魔法。錬金術、薬師のポーションが間に合わず全滅した? おいおい、騎士団もやられたのか!」
この話に店の中がザワザワしだし「今年に入って、この国では今何が起きている?」と、みんなは口にした。
一人の男が、号外の記事を指差した。
「号外の下を見ろよ! 大型魔物の話よりも、前王太子妃様を探す記事がデカデカと載っているぞ! クソッ! 王族は離縁した前王太子妃様を何年も探すんじゃねーよ! もっと強い冒険者か、よその国から瘴気を払える神巫女、聖女を呼んだほうがいいんじゃないのか?」
「そうだ、あんな事があったんだ……有能な、前王太子妃様が戻るわけがない!」
みんながウンウン頷く。
(あんなことがあった? 嘘。王都より遠いシシカバの街の人にまで、ルールリアの浮気の話が知れ渡っているの?)
いや、もう、かれこれ五年もの前のことだ、記者が真相を調べて記事を書いたのかも。フウッと小さくため息を吐くと、シシは私の手に「平気か」と手を重ねた。
それに私は「平気だと」頷く。それを真似して、チェルも背伸びをして小さな手を乗せた。大丈夫――いまの私には大切な可愛い息子のチェルと、頼りになる旦那様のシシがいる。
「前王太子妃様は働き者で、立派な聖女様だった。あの方がいたからこそ、このシシカバの街も平和になった。いまの今まで平和だったのはあの方の力が残っていたからかもな」
そうだな、と。冒険者達、店の店主、店員は今度は深いため息をついた。
しかし、当時の私は一度も聖女だと呼ばれたことはない。だけど私が城を出て、浄化しなくなって五年が経ち。カサロの森以外にも瘴気が溢れ、大型の魔物が出現するようになった。
前世、読んでいた小説の世界で私、アーシャはルールリアとの婚約破棄後、出番がないと言うか、いっさい物語に名前も出てこない。次の章はルールリアとロローナの結婚までの話。
だけど物語が代わり、私はルールリアと学園卒業後に結婚をした。そして七年後にあらわれたヒロイン、ロローナと浮気をされて離縁した。内容はかなり変わっているけど、脇役で悪役の私は表舞台から退場した。
(確か新しい章では結婚前の二人に大事件が起こる。何かの封印が解かれた? ……王太子妃となったロローナに隠された力が……!っと、あらすじに書いてあったかな?)
「この物語の新刊が出るのね、予約しなくちゃ」と、本の予約をしたが、発売日前にいろいろあって私は小説の続きは読めていない。
本のあらすじから見て、王太子妃となったヒロイン、ロローナに隠された力がもし聖女の力だったら。国中の森に瘴気が溢れ、大型の魔物はいない。
――まだ、彼女に隠された力が芽生えていない?
そうなら。仕方がない物語が変わってしまった、だとか悠長に話しをしていられない。今回、魔物の討伐に出た、多くの人が亡くなっている。
もう、私の出番は終わったのだとか。
離縁した私には関係ないだとか、傍観している場合じゃない。
(いいえ……ここは焦らず。まず、シシに相談しなくちゃ)
店内は冒険者の一人が持ってきた、号外で賑わっている。
私はそれを見渡し。
「さあ、帰りましょう」
と伝えた。
「ああ、帰るか」
「パパ、抱っこ」
夕飯に照り焼きチキンサンドと、苺のケーキを三つ買って、ローレルのケーキ屋をあとにした。