浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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 今、魔道具を使ったのは誰だ? と広場で辺りを見回すと、シシカバの街の入り口に、黒い帆の荷馬車が止まっているのが見えた。その荷馬車の周辺に立つ、鎧を身に付けた三人の騎士。

 彼らが付けているマントの紋様と、止まる荷馬車のマークはここアウスター国、王族のものだ。

(またアイツが、アーシャを探しているのか?)

 アーシャばボクの番だ、いい加減にあきらめろ。と思いながら、ボクは少し距離があるが広場から耳を立てて、彼らの会話に集中した。

「このシシカバの街で、前王太子妃に似た人物がいたんだろ?」
 
「ああ、なんでも冒険家ギルドから出てきた、女性の背丈が似ていたらしい」
 
「だから、この周辺の街と村で魔力測定しろだとよ」
 
「もう5年も経つんだ、殿下も早く諦めればいいのに。――でもよ、オレたちはコッチに来れてラッキーだよな。魔物討伐隊の奴ら……また魔物にやられて、何人も死んだらしいじゃないか」

「ひぇー今年に入って何回目だよ。王家は俺たちの命を軽く見過ぎだ! ……ハァ、オレ討伐隊に選ばれたら、田舎に帰ろうかな」

「俺も……そうなったら帰る」

 三人の盛大なため息が聞こえた。王国の騎士はそうとう苦労しているようだ。「おい!」とその場に、彼らとは付ける鎧が違う隊長らしき騎士が現れ、立ち話をしていた三人を咎めはじめた。

「お前ら、たるんでいるぞ!」
 
「「「ハッ、ハンサ隊長すみません」」」

 三人は勢いよく頭を下げた。

 

 ――アイツは。
 
 ボクはその隊長格の男の顔は知っていた。なぜがというと、アーシャの父が最近になっても公爵家に来ると言っていた、アーシャと同じ学園に通っていた男だ。アイツはアーシャの顔を知っているから選ばれたのか? いや、父の話では離縁後のアーシャを娶りたいと、言ってきたと話していた。

(奴もまたボクのアーシャを狙う、厄介な男か……)

「ねぇ、ねぇ、パパ、もう怖いのない?」

 ボクの胸で震えるチェル。もう怖い目に合わせたくなくて「ごめん」と心の中で謝り、チェルに眠りの魔法をかけ眠らせた。

 魔法で眠ったチェルを抱っこしたまま、その上から黒いローブを羽織り、アーシャがいる冒険者ギルドへと向かった。

 
 
 ❀



 時刻はニ時半過ぎ、少し早いけどギルドのカウンターに向かった。

「すみません。本日、三時にギルドマスターと話し合いをすると約束をしました、冒険者のシシです」

「はい。シシ様、お待ちしておりました。奥の応接間に案内いたします」

 受付嬢に案内されて、冒険者ギルドの応接間に入ったすぐ「キ――ン」と耳鳴りのような音がしたが。今、魔力が殆どない私には、何が起こったのか感知する事ができなかった。

(もし何かあったら、シシが守ってくれるから安心だけど……)

「シシ様。ギルドマスターを呼んできますので、お掛けになって待っていてください」

「は、はい、わかりました」

 受付嬢は頭を下げて、ギルドマスターを呼びにいった。んーん、おかしい? 彼女もいま耳鳴りを感じたはず、だけど彼女は平然としていた。まるで何か起きることが、わかっていたかなように。

(なんて、私の考えすぎかしら?)
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