浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

33

〈アーシャ。ここに人が来るぞ、気を引き締めて〉

 シシが言ったおり、ギルドマスターともう一人、この応接間に来るようだ。あれ? さっきまで感じなかった人の気配と、こちらに来る彼らから魔力を感じる。

 ――あ、さっきのシシのキスは私に魔力を渡すため?

 それほど危険な人が応接間に来るのだろうか。私はなるべく顔を隠すために、腕につけていた髪留めで髪をあげ、フードを深く被って息を吸った。

〈緊張しているところ悪いけど、アーシャに言いたい事がある。今日渡す無限ボックスとポーション。前の毒肉の話がギルドマスターから出たら、全部旦那のボクだと言ってくれる? それと、ここにもう一人来るけど、いまから来る奴はアーシャの知っている奴だから〉

〈私の知っている人が、ここに来る?〉

 ――まさか、ルールリア王太子殿下?

 誰なのかとシシに聞こうとしたとき。応接間の扉がガチャッと開いた。そこに見覚えのあるギルドマスターと……学園卒業から七年の時は経つが、私の知っている殿下の幼馴染で、近衛騎士のラル・ローズキス伯爵が真っ白な騎士の鎧をつけて現れた。

(なぜ、近衛騎士の彼がここに?)

 だとすると、さっきの魔道具は彼が使ったのか。
その彼の後ろに、殿下の影がチラチラと見える気がして嫌な感じがした。

「これは失礼、約束の時間を過ぎてしまいましたな。遅くなりました、シシ様」

 ギルドマスターが挨拶して、そのあとにラルが頭を下げた。シシから貰った魔力はまだ少ないから、声変えの魔法は使えない。自分ができる範囲で少し声を変えるしかない。

「いいえ。お忙しいところ、私が約束をしたこちらが悪いのです……」

 少しいつもとは違う低い声と私の言葉の詰まりに、連れてきた騎士を、私が気にしているのがわかったのか。

「シシ様、この前の毒肉の件を国へ伝えたところ。国の方から一度あなた様にお会いしたいと言われまして、今日の話し合いの場に来ていただきました」

 と、彼が来た理由を私に説明して。ラルに「騎士様、お座りください」とソファを進め、一人がけのソファにそれぞれ腰掛けた。

 こんな所で会うとはね。常に殿下のそばにいて、殿下の浮気を知っていたはずなのに。何一つ私の報告をしなかった男。

 それだけでも腹立たしい(はらだたしい)のに。殿下と離縁したあと、お父様に私と結婚したいと申しでてきた変な男だ。

「シシさん、アウスター国から派遣されましたラル・ローズキスといいます。あなたが肉屋で毒肉を見つけたのですよね」

 挨拶のあと、探るような瞳を向けられた。
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