浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。
38
日が暮れ、街灯が灯るシシカバの街。広場で遊んでいたのか親子で手を繋ぎかえる人々、閉店の作業をする店。――そう、しばらくして酒場が開き、働いた人、冒険者たちが集まる。
明るい時間と、夜の時間で行き交う人がガラリと変わる。
(酒場が開くまえに、早く帰らないと)
〈アーシャ、コッチ〉
シシは私を呼び、ひとけの少ない路地にはいると、姿消しの魔法を解き姿を現し。魔法で眠らせたチェルを起こして、夜風に体を冷やさないよう、暖かくなる魔法を私とチェルにかけてくれた。
「暖かいわ。ありがとう、シシ」
「お礼はいらないよ。当たり前のことをしたまでさ」
鼻をすり合わせ、やさしく微笑むシシ。魔法が解けて目を覚ましたのか、モゾモゾと動き、シシのローブからチェルがボフッと顔を出した。
「チェル、目が覚めた?」
「……あ、ママだ。ママはお仕事終わったの?」
「ええ、お仕事は終わったわ。――そうだ、待っていてくれたご褒美に。チェルの好きなローレルのケーキ屋に寄って、家に帰りましょう」
「ケーキ? やった!」
閉店前のローレルに寄って、ケーキ3つと朝食用のパン、照り焼きチキンサンドを買って私たちは家路についた。
夕食の時間。ローレルで買ったチキンサンドを頬張り、チェルは広場でパパと遊んでいたら、怖い音が聞こえてきたと言った。それはシシカバの街の入り口で、ラルが使用した、魔力を測る魔導具のことだろう――私も冒険者ギルドで耳鳴りがした。
シシの話では両手に持てるくらいの、大きさの魔導具だと言っていた。私が子供の頃に受けた魔力鑑定の装置は、大人でも運べるような大きさではなかったから、新たに他所の国から買った魔導具なのだろう。
(殿下はそんな高価なモノを買ってまで、私を探している? 浄化の旅には今回だけ出るけど……この小説のヒロイン、ロローナは何をしているのかしら?)
気になるのなら。私が王城へ出向き確認すれば早い話なのだけど。私は2度と、あの人達には会いたくない。
――辛い日々は送りたくない。
――寂しいのも、悲しいのもイヤ。
――でも、でも。
「アーシャ、夕飯の手が止まってる……考えすぎだ」
「ママ?」
シシとチェルは食事を終えて、ケーキの準備をしているのに。私はチキンサンドを手に一点を見つめ、シシとチェルに声をかけられるまで――でも、でも、と私は考え続けていた。
(今日、あの人。ラル・ローズキスに会ったからかしら、昔に引きずられる。私には大好きなシシとチェルがいるのに……魔力不足で弱気になっているのかしら?)
――そうよ、いつもの私とは違う。
「シシ、チェル……ありがとう。いただきます」
夕飯のチキンサンドを食べ切り、みんなで好きな苺のケーキを楽しんだ。
お風呂がおわりチェルは部屋で眠り、私とシシの時間がはじまる。精霊の地で魔力が枯渇して、シシに少しだけの魔力を渡された体は――魔力がなくてカラカラで、我慢していた。
「早く、シシ……あなたの魔力が欲しい」
「アーシャは、そんなにボクの魔力が欲しいの?」
コクコク頷くと。シシからのチュッとイジワルな、軽いキスだけ。それでは足らなくて、自分からもっと、もっととシシにすり寄ると、甘く濃い魔力が流れてくる。
「こ、濃い……濃すぎる。いきなりは理性が飛ぶから……シシ、手加減してよ」
「無理だ。いまのアーシャの姿に興奮してるから、ごめんね。覚悟してね」
この夜、シシの愛に私は溺れた。
明るい時間と、夜の時間で行き交う人がガラリと変わる。
(酒場が開くまえに、早く帰らないと)
〈アーシャ、コッチ〉
シシは私を呼び、ひとけの少ない路地にはいると、姿消しの魔法を解き姿を現し。魔法で眠らせたチェルを起こして、夜風に体を冷やさないよう、暖かくなる魔法を私とチェルにかけてくれた。
「暖かいわ。ありがとう、シシ」
「お礼はいらないよ。当たり前のことをしたまでさ」
鼻をすり合わせ、やさしく微笑むシシ。魔法が解けて目を覚ましたのか、モゾモゾと動き、シシのローブからチェルがボフッと顔を出した。
「チェル、目が覚めた?」
「……あ、ママだ。ママはお仕事終わったの?」
「ええ、お仕事は終わったわ。――そうだ、待っていてくれたご褒美に。チェルの好きなローレルのケーキ屋に寄って、家に帰りましょう」
「ケーキ? やった!」
閉店前のローレルに寄って、ケーキ3つと朝食用のパン、照り焼きチキンサンドを買って私たちは家路についた。
夕食の時間。ローレルで買ったチキンサンドを頬張り、チェルは広場でパパと遊んでいたら、怖い音が聞こえてきたと言った。それはシシカバの街の入り口で、ラルが使用した、魔力を測る魔導具のことだろう――私も冒険者ギルドで耳鳴りがした。
シシの話では両手に持てるくらいの、大きさの魔導具だと言っていた。私が子供の頃に受けた魔力鑑定の装置は、大人でも運べるような大きさではなかったから、新たに他所の国から買った魔導具なのだろう。
(殿下はそんな高価なモノを買ってまで、私を探している? 浄化の旅には今回だけ出るけど……この小説のヒロイン、ロローナは何をしているのかしら?)
気になるのなら。私が王城へ出向き確認すれば早い話なのだけど。私は2度と、あの人達には会いたくない。
――辛い日々は送りたくない。
――寂しいのも、悲しいのもイヤ。
――でも、でも。
「アーシャ、夕飯の手が止まってる……考えすぎだ」
「ママ?」
シシとチェルは食事を終えて、ケーキの準備をしているのに。私はチキンサンドを手に一点を見つめ、シシとチェルに声をかけられるまで――でも、でも、と私は考え続けていた。
(今日、あの人。ラル・ローズキスに会ったからかしら、昔に引きずられる。私には大好きなシシとチェルがいるのに……魔力不足で弱気になっているのかしら?)
――そうよ、いつもの私とは違う。
「シシ、チェル……ありがとう。いただきます」
夕飯のチキンサンドを食べ切り、みんなで好きな苺のケーキを楽しんだ。
お風呂がおわりチェルは部屋で眠り、私とシシの時間がはじまる。精霊の地で魔力が枯渇して、シシに少しだけの魔力を渡された体は――魔力がなくてカラカラで、我慢していた。
「早く、シシ……あなたの魔力が欲しい」
「アーシャは、そんなにボクの魔力が欲しいの?」
コクコク頷くと。シシからのチュッとイジワルな、軽いキスだけ。それでは足らなくて、自分からもっと、もっととシシにすり寄ると、甘く濃い魔力が流れてくる。
「こ、濃い……濃すぎる。いきなりは理性が飛ぶから……シシ、手加減してよ」
「無理だ。いまのアーシャの姿に興奮してるから、ごめんね。覚悟してね」
この夜、シシの愛に私は溺れた。