浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

39

 ここはアウスター国の王城。ラル・ローズキスはシシカバのギルドでの話を、ルールリア王太子殿下に伝えていた。

「そのシシカバの女は、僕のアーシャではなかというのか?」
 
「はい、ルールリア殿下。その女性の魔力は我々が期待していモノとは違い国民以下でした。あと声、見た目、髪色が少し違っておりました」

 ラルはシシカバで調べ、見た通りのことを伝えた。

「そうか。またしてもハズレか……馬鹿高い魔導具が手元にあるというのに、僕のアーシャはどこにいる? あの日以来シシリア公爵家にも帰らず。何処かで1人、みじめに暮らしているはずだ、はやく見つけ出せ!」

「はっ、必ずアーシャ様を見つけ出します(そして、私の嫁にします)」

 近衛騎士ラル・ローズキスの思惑にも気付かない。
 一応仕事はするが国王、王妃の浪費グセも治らず。ルールリアは齢(よわい)30となっても国王になれず、頼れる家臣も少なく、王太子妃らしからぬロローナの振る舞いに頭を痛め、焦りが募るばかりだった。



 アーシャが住むカサロの森。早朝、何やらご機嫌なシシがキッチンに立ち朝食を作っている。昨夜、いや今朝まで愛し合った2人。アーシャはシシからたくさんの愛と、魔力をもらい今は夢の中。

 シシはベーコンエッグをフライパンで焼きながら、目元と口元がゆるむ。

(……ハァ可愛かったなぁ、ボクの奥さん。魔力の枯渇は体に悪いが、昨夜のアーシャの困った表情と……艶っぽい表情は堪らなかった。大切、守りたいアーシャ。彼女はどんなボクの全てを受け入れてくれる、愛しいボクの番)

 ――息子のチェルも大好きさ!

 

 チェルが目を覚ましたのか扉が開く音と、お気に入りのぬいぐるみと一緒にキッチンへ来る音が聞こえた。

「おはよ……あ、パパ? ママは?」

 いつもは散歩に出ている時間なのに、ボクがキッチンにいて驚く。寝癖と、まだ眠そうなチェル。
 
「チェル、おはよう。ママは昨日のお仕事で疲れて、まだ寝ているから、起こしてはダメだよ」

「ママ、お仕事で疲れたの? わかった」

 お気に入りのぬいぐるみを椅子に置くチェル。ボクは焼きたてのパンと、ベーコンエッグを食卓に置いて、チェルを抱っこした。

「チェル、顔を洗って、朝ご飯にしようか」
「うん。ボク、もうお腹ぺこぺこ」
「パパもお腹ぺこぺこだ。――そうだチェル、朝食が終わったらパパと森へ散歩に行こうか」

 ボクからの散歩の誘いに、チェルは瞳を大きくした。
 
「森に? 行く! パパ、あのね、ボクね。ママにお花をプレゼントしたい」
「ママにお花のプレゼント? いいね。ママが喜ぶよ」

 ママ思いのチェル。

(ウチの子はやっぱり可愛い!)
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