浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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 シシとチェルが好きなオムライスは。ほんのり甘いチキンライスを薄皮の卵で巻いた、昔ながらなオムライス。フワフワ卵のオムライスを作ったとき「美味しいけど、いつものがいい」と二人に言われた。

 ご飯、鶏肉、タマネギ、ニンジン、バター、塩とコショウでチキンライスを作り、薄皮の卵で巻く。チェルはこの卵を巻く動作が好きで、シシに抱っこされ調理を覗きにくる。

「ママ! いまから卵、くるんする?」
「ええ。くるん、するわよ」

 大好きなオムライスが出来る喜びと、くるんが見れるとワクワクでチェルの瞳が輝く。もう少し大きくなったら「ボクもやる」と言って、キッチンに立つかな。

(そのときが楽しみね)

 私は出来上がったオムライスを食卓に並べ、サラダとスープを準備した。「いただきます」とみんなで手を合わせて、お昼ご飯を食べはじめた。

「ママが作るオムライス、おいしい!」
「ああ、うまい。ずっと、オムライスでもいいな」
「ボクも!」

 うれしそうにオムライスを食べて、口の周りをケチャップ色に染めた二人を見ていた。ブーンと羽音が聞こえ、調理のために開けた窓から、十五センチくらいもある一匹の虫が中へとはいってくる。

 ――え、ミツバチ? 家の周りに張った、結界を超えてはいってきた、このミツバチに気付かなかった。

 そのミツバチはシシと私の前をとおり過ぎて、ブーンとチェルの方へと近付いた。

「チェル、危ない! ミツバチに刺激を与えてはダメよ」

「ママ、わかった」

 慌てて立ち上がり、チェルをミツバチから離そうとしたが。いっしょに守ると思ったシシは、あわてずミツバチを触ろうとした。

「シシ、危ない!」
「パパ?」

「大丈夫だから、落ち着いてアーシャ、チェル。ボクも初めて見るけど、これは精霊からのお手紙だよ」

「「精霊からのお手紙?」」

 驚く私とチェルの前で、シシがミツバチへ触れるとポンと、一枚の大きな葉っぱへと姿を変えた。

 

 シシの手の中で、ミツバチから葉っぱへと変わった手紙には、不思議な文字が書いてあった。

(はじめて見る文字だわ)

 葉っぱの手紙をながめるシシに。

「ねえ、シシにはその文字が読める? 読めるなら早く読んで、そのお手紙には何て書いてあるの?」

「パパ、なんて書いてあるの?」

「アーシャ、チェルあわてない! いま読むから」

 シシには不思議な文字が読めるらしく、お手紙を読みながら、ウンウンと頷いて微笑んだ。

「チェル、よかったね」
「ボクが、よかった?」

 ウチヘ届いた精霊からのお手紙は、モコモコオオカミのナナちゃんから、チェルに宛てたお手紙だった。シシの話では精霊からの手紙は本来、精霊同士でしか送り合わないお手紙。

「仲間同士ならどこまでも、どこでも送れる手紙だと聞いたことがあるよ。ナナちゃん、チェルにどうしてもお手紙を書きたくて、モコモコオオカミの長老に聞いたのね」

「ボク、ボクね。ナナちゃんからのお手紙うれしい!」

 チェルはナナちゃんからの葉っぱのお手紙を、うれしそうに胸へ抱きしめた。
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