浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

商人が向かった先

 冒険者と商人が操る馬車はお昼前に、王都へと着いた。商人は冒険者たちにお礼と依頼金を渡すと、王城の方角へと荷馬車を走らせた。

 頭にビードロ製の帽子、首にケープを巻きチュニックとスラックス、足元にブーツを履いた商人は荷馬車を操りながら、ため息をついた。

(煩く、まったく使えない冒険者どもでした。……フウッ、危険なのは森で出会ったローブの冒険者。いやぁ〜危なかったですね。その人が荷馬車の大切な商品に気付く前に、魔消し(魔力消し)をしたのは正解でした――もう一つ、あの者が使用した煙玉をどうにか手に入れて、改良すれば使えそうです)

 面白いものを見つけたと、商人は楽しげに口元を緩めた。

 ――コレもアノ方のために。



 商人はアウスターの王城に着き、城の門番に金色に光るユサーロンの使者の証を見せた。門番の1人は使者の到着を伝えに城へと向かった。

 すぐに案内人が来て商人は荷馬車を門番に預けて、持ってきた荷物を持ち、王の間へと通される。そこに待っていたのはアウスターの国王陛下ではなく、王太子ルールリア。彼の隣には宰相と近衛騎士、離れた場所に騎士団長が立っていた。

 ルールリアは嬉しげに「よくここまで、お越しくださいました」と声を上げた。商人は深く頭を下げ、持ってきたものをルールリアに見せる。

 この商人が持ってきたのはジャック・オ・ランタン(ランタン持ちの男)が手にしているランタンに似た物。そのランタンの中央には赤黒い石がはめ込まれていた。

「商人、それが瘴気を取り除く魔導具か?」
 
「はい。このランタンの中には"魔吸い石"という赤黒い魔石が仕込まれております。この魔吸い石がはびこる悪気モノ――瘴気を吸い込みいたします」

 商人の言葉に大喜びのルールリア。彼はいくら探しても見つからないアーシャ探しは止める気はないが。アウスター国の状況を知った隣国ユサーロン王からの書状が届く。ルールリアはそれを読み、すぐその品物を寄越せと返し、商人を国まで呼び寄せた。

「おお、素晴らしい。それを今すぐにでもいただきたいが……商人よ、そのランタンの段はいくらだ」

「はい。ユサーロンの陛下は『ランタンを、ルールリア王太子殿下へお譲りいたしなさい』と、申しておりました。ただ――瘴気を吸い込んだ魔吸い石は、こちらで回収させていただくのが条件になります」

「そんなモノいくらでも渡す」
「ありがとうございます。瘴気を魔吸い石へ集めましたら、この魔石箱に入れてお送りください」

「わかった」

 ここで話は終わったが、商人はルールリアに一つ聞きたいことがあると伝えた。それはカサロの森での出来事と、魔物を痺れさせた煙玉のこと。

 ルールリアは話を聞いてもわからなかったが、近くにいた騎士団長はその煙玉――もしや、自分が持っているものと同じだと考えた。しかし、この事は騎士団の者しか知らないこと。

 伝えるべきか。
 黙っているべきか。

 まずは、その魔導具が使えるモノか確かめたからだと決めた。
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