浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

騎士団長と近衛騎士の話。王城のロローナが見つけたモノ。 1ページ

 ここは王都の酒場、騎士団長キル・スローガは「話がある」とある人物をここへ呼び出した。その人物とは、ルールリア王太子殿下の近衛騎士ラル・ローズキスだ。

 彼らは歳は違うが騎士になった時期が同じ、二人は同期だった。

「キル、ルールリア王太子殿下と今後の話をしていた。遅れて悪いな」
 
「いや。俺も今来たばかりだ、気なするな」

 仕事上がり、ラフな格好の2人はカウンター席で、冷えたエールで喉を潤した。
 
「プファ~、うめぇ~! 仕事上がりの一杯は格別だな~。でもよ、急に酒を一緒に飲もおってどうした? 騎士団で何かあったのか?」

「いいや、お前に話がある」

 キルはスラックスのポケットから丸く、小さな煙玉をひとつ取り出しカウンターに置いた。それは騎士団の中では暗黙の了解の、魔物避けの煙玉だ。それを見たラルはそれが何かわからず「それは何だ」とキルに聞いた。

「これはな、いまは使われなくなったアーシャ様の研究室で見つけた……魔物を痺れさす煙玉だ」

「はぁ? アーシャ様の研究室で見つけたぁ? お、お前、アーシャ様の研究室を粗探ししたのか」

 コクっと頷いたキルに、ラルは怒ることができない。彼らは最前線で魔物と戦い、多くの仲間を亡くしているのだ。

「まあ、粗探ししたことは黙っていてやるが。その煙玉がどうした?」

「ラル。本日、王の間に来た商人がカサロの森で助けられたと言っていたよな。そのとき使用された煙玉が、もしかするとコレかもしれない」

「なぜ、そう思うんだぁ?」

 疑問に思うラルに、キルはこの煙玉の効果を話した。

「魔物を痺れさす? あの商人もそのように話していたな。だとすると、アーシャ様がカサロの森でその商人を助けたことになる。あの方は今、カサロの森にいらっしゃるのか?」

「それは、まだわからないが。二日後、魔吸い石を確かめるため、カサロの森付近に騎士団は遠征する事になっている。オレはこのときカサロの森に行き、アーシャ様を探してみようと思う」

「いいな、それ俺も手伝いたい。その遠征に同行できないか、ルールリア王太子殿下に聞くかな。魔吸い石の効果も確認したいし」

「おお、剣豪と呼ばれるラルが来てくれるのは、騎士団としてもありがたい」

 各々、考えは違う。騎士団長キルは便利な煙玉をアーシャに作らせるため。近衛騎士ラルはアーシャをみつけたら。アーシャを自分のモノにして。誰の目にも触れさせないよう監禁してしまおうと、考え口元を緩ます。

「ラル、二日後頼んだぞ! さぁ今日はオレの奢りだ、遠慮なく飲んでくれ!」

「キル、言ったなぁ! じゃ、遠慮なく飲ませてもらう」

 キルは頼りにしているラルに話し、心のつかえがとれて上機嫌。一方、ラルはアーシャの有力な手掛かりを見つけ。この上なく、この夜は上機嫌だった。



 +



 二人が酒場で陽気に酒を楽しむ頃。
王城、ルールリアの執務室で、ロローナはあるモノを見つけて驚いていた。

(これって魔吸い石のランタンじゃない? 何故? ここにあるの?)

 ロローナも転生者でこの小説を知っている。彼女はアーシャが買えなかった、小説の続編を読み内容を知っていた。今、ロローナが見たのは後半に出てくる、闇堕ちして醜くなったアーシャが手に入れる魔導具魔吸い石のランタン。

 小説のアーシャはルールリアを奪った、ロローナを恨んでいた。国外追放となったアーシャは隣国に渡り、闇市でこれを見つけ。なにかに操られて多くの瘴気を集め、アレを自身の体を使い復活させてしまう。

(ラスボスになったアーシャを私が可憐に倒して、ルールリア、みんなに感謝されるいい話)

 そのキーアイテムが何故ここにあるのか。それはロローナが女神に頼み、転生を遅らせたことが原因だと彼女は気付かない。

 だから、ロローナは自信ありげに。
まあ、何が起ころうとも「聖女の私がいるのだから大丈夫!」だと。
< 54 / 109 >

この作品をシェア

pagetop