浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。
52 (浄化の旅 南の森編)と閑話
旅の移動はすべてシシの背中に乗って、姿消しの魔法をかけて移動することにした。そうすればホウキで移動するより、アウスターの各森への移動が、スムーズではやく目的地に着ける。
(早朝。家の存在を魔法で消してからの出発だったから、南の森。オールの森に着くのはお昼くらいになるだろう)
〈あと一時間も走ればオールの森よ。シシ、疲れたら言ってね〉
アウスターの地図をみながら、家族の会話は念話で。通る場所は荷馬車、馬車が行き交う国道ではなく。農家、国民が使用する一般道を走っていた。こちらの道は通る人があまりおらず、シシはは私たちも安心して進めると考えた。
〈パパ、疲れていない?〉
〈まだまだ、平気だよ。アーシャ、チェルが落ちないように気を付けて〉
〈ええ、わかっているわ〉
軽やかに走るシシの背中で、チェルは初めて目に見る外の風景にキョロキョロして、ワクワクして、興奮してたくさん話す。
〈ママ、あそこに家がたくさん並んでいる。いつも行く街とは違うね〉
〈ママ、あれはなに?〉
〈あの人は何をしているの?〉
〈ママ、鳥だよ!〉
シシカバの街以外に行ったことがないチェルは、木造の家が並ぶ集落。水を送り込む水車。畑仕事をする人、空を飛ぶ鳥を見て喜び。
〈あとでナナちゃんに送る、絵を描かなくっちゃ!〉
と笑った。
カサロの森を出てから一時間。まわりの木々、景色が変わる。あと数分でオールの森に着く私たちは、近くの原っぱで早めの昼食と。魔物が出るオールの森での野営は危険だからと、森近くに天幕が張れる場所を探した。
「アーシャ、ここの開けた場所がいいんじゃないか?」
「いいわね。天幕も張れそう」
オールの森近くにひらけた場所を見つけて、シシの背中から降りた瞬間、森の瘴気を感じ私は森を見つめた。私たちが住む、カサロの森よりもドス黒いモヤが森を覆った。
――嘘。
(五年前、浄化で来たときとは瘴気の濃さが違う……浄化する? いいえシシとチェルがいるから一旦離れなくちゃ)
あまりの瘴気の濃さにおののき。草花を見つめるチェルを抱きしめ、天幕を張るため、人型へ戻ったシシの手を掴みオールの森から離れた。
「マ、ママ?」
「アーシャ、どうした?」
「シシ、チェル、この森の瘴気がとても濃いわ。あの場所での野営は諦めましょう」
私は忘れていたのだ……王太子妃の頃、この森へ年に数回、浄化に通っていたことを。この森がどれだけ危険かを。
(閑話)ロローナの転生が遅れた理由
私は伯爵家の令嬢、ロローナ・ギロンド。このファンタジー恋愛小説のヒロインで、前世の記憶がある転生者。女神にこの異世界に転生できると聞いてワクワクした。
でも待って。
これって攻略対象がいる乙女ゲームとは違い、小説だから恋愛の相手は一人。
たしか、脇役もいたけど、結ばれるのは王子よね。
ん――、私ってめんどくさいことが嫌いなの。
だから私はこう考えた。私には魅了魔法があるし、めんどうな学園に通わず三年後に十五? 十六? の若くて、可愛い私がドーンと登場するの。
いらない……あ、出番が終わった悪役さんにはサッサと退場してもらって、ヒーローとパパッと結ばれちゃえばいい。
女神にそのようにしてもらえれば、私はこの辺でなんにもせず、のんびり三年間過ごせるし。大嫌いな学校とか、勉強もしなくていい。転生してすぐお金持ちのヒーローと出会い、すぐ結婚して、毎日ゴロゴロして贅沢ができる。
――私ってアッタマいい!
この事を女神にお願いしたら「あなた珍しいわね、いいわよ」って言ってくれた。せっかく異世界に転生するのだから面倒ごとは"なし"で、ラクして、楽しく生きたい。痛いのは嫌いだし、悪女さんなんかに虐められたくないもん。
そうだ。小説だと私がヒロインで聖女らしいけど、私の出番は最後の見せ場のときよ。それまでのお膳立ては誰かがやってくれるはずだから、その人に任せたわ!
ウキウキと魂の姿で我儘を言う少女を、女神は時がくるまで眠らせた。女神は両親から愛を貰えず育った少女に、新たな異世界で愛がある人生を渡そうと思っていたのだ。
(この魂、子供から育つのが嫌なのなら。わたしが作った魂を入れて、その魂が十五か、十六に育ったらこの少女の魂を入れればいい)
女神はこのとき準備していた渡す力を、先に転生したアーシャへと授け、目の前で眠る魂に。
(あなたに渡すはずだった力以上の力を使い、新たな魂を作った。あなたばかり優遇するとわたしが神様に怒られるので。作った力はあの人に渡し、あなたにはもう何も渡せない――それは、あなたが望んだことだから仕方がないわね)
そして時が来て、少女が望んだ歳に転生したヒロインのロローナは王子と意図的に出会う。このとき、王子がロローナに惹かれたのは彼女の見た目。
彼女は聖女の力を持たない。ヒロイン特典のお粗末な魅了魔法しか持たない、女の子だということは女神しか知らない。
――ヒロインで、聖女の、伯爵家令嬢ロローナ! 爆誕!
と、少女はこの異世界に転生した。
(早朝。家の存在を魔法で消してからの出発だったから、南の森。オールの森に着くのはお昼くらいになるだろう)
〈あと一時間も走ればオールの森よ。シシ、疲れたら言ってね〉
アウスターの地図をみながら、家族の会話は念話で。通る場所は荷馬車、馬車が行き交う国道ではなく。農家、国民が使用する一般道を走っていた。こちらの道は通る人があまりおらず、シシはは私たちも安心して進めると考えた。
〈パパ、疲れていない?〉
〈まだまだ、平気だよ。アーシャ、チェルが落ちないように気を付けて〉
〈ええ、わかっているわ〉
軽やかに走るシシの背中で、チェルは初めて目に見る外の風景にキョロキョロして、ワクワクして、興奮してたくさん話す。
〈ママ、あそこに家がたくさん並んでいる。いつも行く街とは違うね〉
〈ママ、あれはなに?〉
〈あの人は何をしているの?〉
〈ママ、鳥だよ!〉
シシカバの街以外に行ったことがないチェルは、木造の家が並ぶ集落。水を送り込む水車。畑仕事をする人、空を飛ぶ鳥を見て喜び。
〈あとでナナちゃんに送る、絵を描かなくっちゃ!〉
と笑った。
カサロの森を出てから一時間。まわりの木々、景色が変わる。あと数分でオールの森に着く私たちは、近くの原っぱで早めの昼食と。魔物が出るオールの森での野営は危険だからと、森近くに天幕が張れる場所を探した。
「アーシャ、ここの開けた場所がいいんじゃないか?」
「いいわね。天幕も張れそう」
オールの森近くにひらけた場所を見つけて、シシの背中から降りた瞬間、森の瘴気を感じ私は森を見つめた。私たちが住む、カサロの森よりもドス黒いモヤが森を覆った。
――嘘。
(五年前、浄化で来たときとは瘴気の濃さが違う……浄化する? いいえシシとチェルがいるから一旦離れなくちゃ)
あまりの瘴気の濃さにおののき。草花を見つめるチェルを抱きしめ、天幕を張るため、人型へ戻ったシシの手を掴みオールの森から離れた。
「マ、ママ?」
「アーシャ、どうした?」
「シシ、チェル、この森の瘴気がとても濃いわ。あの場所での野営は諦めましょう」
私は忘れていたのだ……王太子妃の頃、この森へ年に数回、浄化に通っていたことを。この森がどれだけ危険かを。
(閑話)ロローナの転生が遅れた理由
私は伯爵家の令嬢、ロローナ・ギロンド。このファンタジー恋愛小説のヒロインで、前世の記憶がある転生者。女神にこの異世界に転生できると聞いてワクワクした。
でも待って。
これって攻略対象がいる乙女ゲームとは違い、小説だから恋愛の相手は一人。
たしか、脇役もいたけど、結ばれるのは王子よね。
ん――、私ってめんどくさいことが嫌いなの。
だから私はこう考えた。私には魅了魔法があるし、めんどうな学園に通わず三年後に十五? 十六? の若くて、可愛い私がドーンと登場するの。
いらない……あ、出番が終わった悪役さんにはサッサと退場してもらって、ヒーローとパパッと結ばれちゃえばいい。
女神にそのようにしてもらえれば、私はこの辺でなんにもせず、のんびり三年間過ごせるし。大嫌いな学校とか、勉強もしなくていい。転生してすぐお金持ちのヒーローと出会い、すぐ結婚して、毎日ゴロゴロして贅沢ができる。
――私ってアッタマいい!
この事を女神にお願いしたら「あなた珍しいわね、いいわよ」って言ってくれた。せっかく異世界に転生するのだから面倒ごとは"なし"で、ラクして、楽しく生きたい。痛いのは嫌いだし、悪女さんなんかに虐められたくないもん。
そうだ。小説だと私がヒロインで聖女らしいけど、私の出番は最後の見せ場のときよ。それまでのお膳立ては誰かがやってくれるはずだから、その人に任せたわ!
ウキウキと魂の姿で我儘を言う少女を、女神は時がくるまで眠らせた。女神は両親から愛を貰えず育った少女に、新たな異世界で愛がある人生を渡そうと思っていたのだ。
(この魂、子供から育つのが嫌なのなら。わたしが作った魂を入れて、その魂が十五か、十六に育ったらこの少女の魂を入れればいい)
女神はこのとき準備していた渡す力を、先に転生したアーシャへと授け、目の前で眠る魂に。
(あなたに渡すはずだった力以上の力を使い、新たな魂を作った。あなたばかり優遇するとわたしが神様に怒られるので。作った力はあの人に渡し、あなたにはもう何も渡せない――それは、あなたが望んだことだから仕方がないわね)
そして時が来て、少女が望んだ歳に転生したヒロインのロローナは王子と意図的に出会う。このとき、王子がロローナに惹かれたのは彼女の見た目。
彼女は聖女の力を持たない。ヒロイン特典のお粗末な魅了魔法しか持たない、女の子だということは女神しか知らない。
――ヒロインで、聖女の、伯爵家令嬢ロローナ! 爆誕!
と、少女はこの異世界に転生した。