浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

5 (ルールリア王太子殿下)

「アーシャ!!」

 あんなに愛を囁いた、僕の大切なアーシャが消えた。自分のしでかした行いに……心が、手足が冷えていく。

「すまない、今日は帰ってくれ」

「なぜ? 貴方ただって妻が邪魔だと言っていたじゃない? 王太子殿下の貴方を見下し、私達の愛を邪魔する邪魔者はいなくなったの――ルル様は私のことを愛しているのでしょう?」

「そうだね、ロローナのことは愛しているよ。だけど今日は帰って欲しい……誰か! この者の着替えの手伝いと、帰りの馬車の手配をしてくれ」

 ベッド脇の呼び鈴を鳴らし、寝室に専属のメイドと側近を呼んだ。すぐに眉をひそめたメイドと側近が来て、彼女の着替えと口止め料を渡していた。

 彼女、ロローナと出会ったのは昨年、視察に向かったルールの街で。
メイドと、この街に訪れていた彼女を見た瞬間、彼女を手に入れたいと僕の心は動いた。

『ルル様!』
『ロローナ!』
 
 アーシャに隠れて執務の合間、視察と言って時間を作り、ロローナと頻繁に外で会うようになり、一月前に体の関係を持った。

 それから僕はロローナしか考えられなくなり、今夜の舞踏会でロローナとのダンスの途中に下から見つめられ、豊満な体をくっつけられ……我を忘れて、僕は彼女を寝室へと連れ込んだ。

 その場をアーシャに見られて、離縁と言われてしまった。

「ルル様?」
「悪いが、今夜は帰ってくれ」

 彼女の着替えが終わり、僕に何度話しかけようとしたが、側近とメイドに連れて行かれた。静かになった部屋の扉がコンコンコン叩かれる。

(来たか)

 それに返事を返すと、騎士は伝えた。

「ルールリア殿下、国王と王妃がお呼びです。至急王の執務室にいらしてください」

 はやいな……アーシャの父、シシリア公爵は離縁の話を、父上と母上に伝えたのか。

「わかった、直ぐに行くと伝えてくれ」

 気持ちと足は重いまま、僕は湯浴みと着替えを済ませて、父上と母上が待つ王の執務室へと移動した。これから、両親に言われる事はわかっている。

 ――今、僕がしてかした事についてだろ。

 王の執務室の立つ警備騎士は僕に礼をして、到着を執務室の中で待つ、国王陛下と王妃に伝えた。

「ルールリア、入れ」
「はい、父上」

 執務室で待つ父上と母上に頭を下げた、ソファに座れと言われて、両親が座る前に座った。

「ルールリア。今、シシリア公爵からアーシャとの離縁状と手紙がフクロウ便で届いたが、ルールリアは何か知っているか?」

 離縁状と手紙? 先ほどアーシャの言った通り、アーシャの父、シシリア公爵が動いたか……この場で取り繕う、嘘を言っている場合じゃない。

「……先程、アーシャに移り気の現場を見られました」

「移り気? そうか……アーシャとお前は相思相愛だと聞いていたが、違っていたのだな」

 ため息と困った表情の父上と。
 鋭い瞳と、冷たい表情の母上。

「まったく誰に似たのかしらね……妻ではない他の女性と性交したいのなら。来年、側室を迎えてからになさいと……あれほど、わたくしが貴方に進言したではありませんか?」

「すみません、母上。それで、シシリア公爵からの手紙には、なんと書かれていたのですか?」

 しばらく沈黙が続き、また父上が口を開く。

「手紙には『お前に、娘を二度と会わせない』と書いてあった……困ったな。あの一族は魔法に長けているゆえ、魔法で隠れてしまったら見つけることは難しい」

 そんなこと、父上に言われなくてもわかっている。霧のように消えてしまったアーシャに、僕は2度と会うことは出来ないだろう。
 
 だが、アーシャへの愛情は消えていないし、今までの通り彼女には僕を助けてもらいたい。

(僕は魔力が高く、賢いアーシャを正妃にして、可愛いロローナは側妃にしたい)

 僕は両方手に入れたい。
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