浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

56

 野営は昼食をとった場所に決めた。――あったかスープパスタの夕飯後、チェルはナナちゃんへの手紙を書いている。夕飯の片付けを終えた私はシシにチェルを頼んで、ランタンをひとつ手に持ち天幕の外に出た。

(キレイ……チェルとシシにも見せたいわ)

 夜空には星が、夜空一面にきらめいていた。その空を見上げて私は――フウッと、ため息をはく。あいかわらず夜空は、1人で浄化に来たときに見た夜空とかわらず綺麗だった。

 精霊の地の、浄化のときもだけど……浄化の前は緊張してしまう。瘴気を消す、浄化魔法はたぐいまれなる集中力と魔力が必要になる――前は1人で国中を走り回り、私がやらなくちゃ、私がしっかりしなくちゃ。私が、私が、と肩に力が入っていたし、疲れたともいえなかった。

 でも、いまは違う。

(私は1人じゃない。頑張りすぎたら止めてくれる、疲れたら抱きしめてくれる最愛の夫のシシがいて、大切な息子のチェルがいる)

 そう思っても手に力が入る、自分のキツく握った手を見つめた。気張るな私、力を抜いてもいい、頼ってもいいんだ。

「アーシャ、チェルがナナちゃんへの手紙がかけたよ」

「ママ、ナナちゃんに手紙送るから、手伝って」

 天幕から手紙を手に持って、シシに抱っこされたチェルが、夜空に輝く星々を見上げ瞳を大きくした。

「うわっ〜! お星様がキラキラしてる」

「カサロの森でみる星もキレイだが。ここでの星もまた違ってキレイだな」
 
「ええ、空が広く空気が澄んでいて綺麗。私ね、いつかこの星を誰かと見たかったの。さあ、チェルの手紙を送りましょう」

 手紙に魔法をかけてフクロウに託す。フクロウはチェルの魔力石を持ち、精霊の地にいるナナちゃんの元へと、この手紙を届けるだろう。

「ナナちゃん、喜ぶかな?」
「大喜びで、返信が来るよ」

 シシにそう言われて、えへへっと可愛く笑うチェルに、私も笑った。
 


「おっと、夜風が出てきて冷えてきたね。そろそろ
、天幕に戻ろう」

「うん!」

「シシ、チェル、私はもう少し夜空を見てから入るわ」

「……わかった」
「わかった、ママ」

 2人が天幕に入る姿を見届けて、私は再び夜空に瞳を向け星々を眺めた。しばらくして夜風にふわりとシシの香りがして、後ろから、包み込むように抱きしめられる。

「シシ? チェルは?」

「『ボク、ナナちゃんにあげる、夜空のお絵描きする』ってさ、だから迎えにきた」

 後ろから頬にキスされる。――だけど。頬だけじゃ足らなくて、彼の腕の中で振り向き、シシの唇をチュッと奪う。

「フフ……ありがとう、シシ。天幕に戻りましょう」

「ああ、みんなで一緒に寝よう。その前にね」

 シシから、濃厚なキスのお返しをもらった。



 翌朝、朝食後。マジックバッグ、荷物の全てをアイテムボックスにしまい、オールの森の南側から森に入り浄化に向かう。チェルには俊敏な動きができ、耳と鼻が良くなる子フェンリルの姿で、フェンリルのシシと一緒に行動をする。

 私は南の森の入り口で杖を構えて、オールの森の南側を鑑定する。南側付近に魔物の反応はなかったけど、瘴気を感じた。

「シシ、チェル、森に入ってすぐの左側を浄化するわ。チェル、パパから離れちゃダメよ」
 
「うん、ママもだよ」
「わかっているわ。みんなで一緒にね」
「ああ、ボクたちはどこでも一緒だ!」

 オールの森の浄化をはじめた。
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