浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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『魔吸い石』ユサーロンの国から商人が持ち込んだ、瘴気を吸う赤黒い魔石だ。

 魔吸い石の実力を知った近衛騎士ラル・ローズキスと、騎士団長キル・スローガは皆が寝静まったあと。魔吸い石のランタンと、火を灯したランタンを持ちカサロの森へと入っていった。

 この森に、アーシャ様がいることを確かめるため。しかし、奥に足を進めようとした、2人の前にオオカミの群れが現れた。これはシシが友達のオオカミたちに肉を渡して、森の見回りをしていてもらっているのだ。

「くっ、来るなぁ!」
 
「おい、キル剣を抜くな。奴らを刺激せず、ここは下がろう」
 
「そ、そうだな。夜はこちらが不利だ……明日の朝、また来よう」

 2人はオオカミに恐れて、カサロの森から逃げて帰った。――もし、ここにシシがいたら。

『2度と来るな! 誰にも、ボクのアーシャは渡さないし、指一本触れさせないよ』

 と、言っただろう。
 浄化の旅の間も、シシは抜かりない。


 
 オールの森のアーシャたちは南の『迷子防止の木』まで、浄化を進めていた。迷子防止の木の下の近くで昼食をとろうと、みんなでお昼の準備中だ。

「アーシャ。さっき狩った、ピヨピヨの肉を捌くか?」

「ええ、ピヨピヨのハツ(心臓)の周りは毒があるから、捌くときに気を付けてね」

 ピヨピヨはニワトリに似た、大きさがダチョウくらいある鳥。さっき、浄化した湖で群をみつけて一羽、シシに狩ってもらった。

 今からさばいて串にさして、塩コショウとタレの焼き鳥にしようと思う。ピヨピヨのお肉はジューシーで、噛めば噛むほどあふれる旨味がたまらない。

「チェル。この竹の串に、切ったお肉をさしてね」

「わかった。ママ、お肉をこうするの?」
「そう上手いわ、チェル」
「チェル、上手だぞ」

 喜んで小さなお手で、一生懸命にお肉をさすチェル。それを見ながら私は、カマドでお肉を焼く。その横でコメを鍋で炊いていた。

「チェル、シシ! まだコメは炊けないから、先に焼けた焼き鳥を食べて」

「ああ、いただくよ。アーシャ」
「いただきます」

 シシとチェルに差し出した焼き鳥を持った手が、迷子防止の木から突然出てきた手に掴まれて、私は木の中へと引きずり込まれた。
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