浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

59

 私は焼き鳥を持ったまま、何者かに手を掴まれて木の中へと連れ込まれた。途中、精霊の地で感じたピリリと肌に感じた。

(どこかの結界の中に入ったのかしら? そうだ昨日、シシがこの森にエルフが住んでいると言っていたから? 私の手を掴んだのはエルフ?)

 私は驚き瞑ってしまった瞳を開けた。

 ――え? オールの森よりも緑が濃く、木々が生い茂り空気が澄んでいる。私たちがいる場所から、民家らしい建物もいくつか見えた。

 そして何より驚くのが。私の手を掴んでいるのは金髪、碧眼、色白、細身、耳長のアオザイに似た衣装を着た美しい男。この男は私の手を掴みながら、焼きたてのピヨピヨのお肉を凝視していた。

「焼きたてですよ、食べますか?」

 と聞いた私に。
 男は睨みつけて。

「そのピヨピヨ鳥の肉には毒があるはずだ! 食べたら死ぬ」
 
「えぇありますが。ピヨピヨの毒はハツの周りだけなので、綺麗に取り除けば食べられますよ」

「な、なに? ハツの周りだけに毒? 味は? それを食べてもいいか?」

 私を木の中へと引き摺り込んで、この辺へと呼んだ理由がありそうなのに。エルフの男はピヨピヨの焼き鳥が、気になっているようだ。私はシシとチェルの焼き鳥を、そのエルフに渡したすと。男は焼き鳥のにおいを嗅ぎ、臭みがないか確かめるとお肉を一口食べた。

「う、うまい! 臭みがない肉は初めてだ」

 美味しそうに焼き鳥を食べはじめる男に。私はおかしいと、前世と今世で読んだ本に、エルフは肉を好んで食べないと書いてあった。喜んで食べる男に……やはり実際に出会ってみないと、分からないことがあるのだと知った。

 

「アーシャ!」
「ママ!」

 シシは「エルフはボクに対して友好的だから」と安心していた。

だが、最愛のアーシャが木の中へと消えた。
 昼食の手伝いのため人型へと戻っていたシシは静かに怒りながら、いまにも泣きそうなチェルに「ママは大丈夫」だと伝えると。魔法でカマドの火を消してフェンリルの姿に戻る。シシを見て、子フェンリルになったチェルを背中に乗せた。

 目の前の、アーシャが消えた木に「ボクの許しもなく! ボクの妻を連れていくとはどういうつもりだ!」と、連れて行ったモノに対して威嚇した。チェルも負けずに「ママを返せ!」とシシの真似をする。

「チェル、なかなか良い威嚇だ。よし、ママを追うぞ」
「うん、ママ!」

 アーシャが連れ込まれた木の中へと、二人は飛び込んだ。
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