浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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 チェルとボクは連れ攫われた、アーシャを追ってきた先で見たのは。楽しそうに地面に絵を描くアーシャと、ガヤガヤうるさく、それを指さして囲むエルフの男達だった。

(追ってきてこれを見せられるなんて、やけるなぁ)

「アーシャ、ここで何をしているんだい?」
「あ、シシ! この森のエルフたちに魔物、動物の毒のありかと、捌き方を教えていたの」

 地面に絵を描く手を止めてアーシャはフェンリル姿の、ボクを抱き、頬をスリスリした。そのアーシャの可愛い行動にヤツらを許しそうになるが、黙ってボクの嫁をさらったエルフ達を睨みつけた。

「おいボクに何も告げず。ボクの愛妻をよくも連れ去ったなぁ!」

「ボクの、ママを連れ去っちゃ、メッ!」

 ボクの背中で子フェンリル姿のチェルも、エルフ達を怒る。その姿があまりにも可愛かったのが。ボクの背中下にアーシャが手を伸ばすと、チェルは彼女の腕の中へと飛び込み、甘え泣いた。

(いきなりママがいなくなって、怖くて、寂しかったんだな。ボクは一応――このエルフたちの住処に何か起きているのは気付いているが、黙って事を起こすのは許すことが出来ない)

 

 シシはエルフの行動に怒り、チェルは寂しがった。私はチェルを抱きしめて、チェルとシシの頬にスリスリする。彼らも「シシ様、すみません」と頭を下げて謝ったが、そう簡単にシシとチェルの機嫌はなおらない。

「すみません、シシ様。カノジョを連れさったワケを話すため、わたしたちの里まで来てください」

「里で詳しい話はいたします」

 そう言われて私たちは。どうして連れ去ったのか訳を聞くために、彼らの案内で森を歩き、近くに見えている集落へと向かった。しかし――その村に到着して愕然とする。彼らの森の中央にそびえる、瘴気で巨木がドス黒い霧に染まり……朽ちていた。

(この状態はマズイ、今すぐ浄化しなくてはいけないわ)

 ――そして気付かなかった。エルフは瘴気に対し耐性があるのか。私をさらったエルフ、集まってきたエルフ……この村に住む彼らの髪に隠れた額に、頬に、腕に、肌の至るところに黒いシミが出来ていた。

 シシもこの村の様子と巨木を見て、目を見ひらいき。

「なんて事だ、彼らの生命の木が……」

 と、言葉がつまらせた。

 このシシの様子に――昔、書物で読んだ物語を思い出す。エルフたちが住む地を守護する生命の木がある。この木が枯れてしまうと……この土地いや、全てが朽ち果て、世界に災いが起こると書いてあった。

 精霊の地といい、エルフたちが住む土地にまで瘴気が溢れた。あの書物の物語の通り……世界、ここアウスターに災が起ころうとしているのか。
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