浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

62

 私は小フェンリルのチェルを抱っこしたまま、杖を構えて浄化魔法を使った。精霊の地の空からとは違い、私の足元に浄化の魔法陣が現れる。

(もっと、もっと――魔力を注いで、この瘴気に満ちたエルフの地を浄化しなくちゃ)
 
「ウッ! フウッ……まだまだよ!」

 しかし根深く瘴気に満ちた大地、生命の木、エルフ達の浄化はともなれば、私の魔力は足りなくなる。無理をせず、今日はここまでにしようとした私の体に、あたたかな魔力が流れ込んできた。

(この流れてきた魔力なら、もう少しいけるけど。この魔力は、どこからきたの?)

 この魔力。自分の魔力にも似ていて、シシにも似た魔力。もしかして、私たちの愛する息子のチェル。私は抱っこしていたチェルを見ると――チェルは目を瞑り祈っていた。

(こ、この魔力はチェルのだわ。シシの魔力と私の魔力で、私よりも強い魔力?)

 でも、このままではチェルの魔力まで奪ってしまう。
 私は浄化の魔法が終わるまで、黙って見守るシシをチェルをお願いすることにした。

「ねぇチェル。ママはもう少し魔法を使うから、パパのところまでジャンプできる?」
 
「魔法? うん。ボク、ジャンプできるよ」

 うなずく、チェルに。
 
「じゃ、ママがパパの名前を呼んだら、チェルはパパの所まで飛ぶのよ」

「わかった!」

 私は消化の魔法を止めることなく、シシを見つめ、視線で伝えた。シシはわかったのか、コクリと頷いた。

「シシ、チェルをおねがい」
「おう、わかった! チェル、ボクのところへおいで!」

 チェルは。私の腕からピョンとジャンプをして、シシの体にしがみついた。それを見て私はアイテムボックスを開き、足らない魔力を、魔力回復のポーションを数本取りだして飲んだ。

 体にみなぎる魔力を感じて、もう一度浄化する。

「みなさん、ごめなさい! 今日だけではすべの浄化は無理ですが。エルフの、生命の木の、大地の瘴気を一時的に浄化いたします!」

 ポーションで回復した魔力と、チェルからもらった魔力を使い、私は今まで以上の力を発揮して浄化魔法を発動した。足元に魔法陣が現れ!浄化の光がエルフ達、生命の木、大地に降り注いだ。

 彼らの体を蝕んだ瘴気。
 ドス黒く、生命の木を取り巻く瘴気。
 大地に染み込む、瘴気を杖を構えて浄化した。

「アーシャ、それ以上は無理するな」
 
「そうだ、無理はするな。でもありがとう、シシの嫁さんのおかげで生き残れそうだ!」

 瘴気が浄化されたエルフの長、アギは自分の緑色の杖を取り出して緑魔法を使い、生命の木をツタで覆った。
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