浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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「やった! この旅が終わればアーシャはボクたち以外に、魔力を使わなくてよくなる」

 シシはすごく喜び、抱きついてくる。
 そうか……私が魔力を使うのをシシは嫌だったのね。人より魔力量が多くても、魔法を使用して深く眠ってしまったり。体調が悪い日はチェルの見えないところで、倒れたこともあったから。

(ごめん、シシに心配をかけているわ)

 私はシシの背に手を回して、その大きな体にガッチリ抱きついた。

「シシ。これから、心配をしなくてもよくなるわ。浄化は新しい聖女の仕事だもの」
 
「ああ、浄化は聖女の仕事だ。アーシャはボクとチェルだけの、アーシャだからね」

 消えているのに、喜んで揺れるモフモフの耳と尻尾が見えた。



「日が暮れてしまう前に、ドワーフの住処へ向かいましょう」

「そうだな、行こう」

 私は丈夫な布をだして、まだ眠るチェルを布で抱っこして、シシの背中に乗った。目指すはリポの森の中にある大岩、ドワーフ達の住処。南側、オールの森に住むエルフの長、アギは「知らせ鳥」を飛ばして助けを求めるほど、ドワーフ達に危険が迫っているのだと、話した。

「ねぇ、シシはドワーフ達の住処を知っているの?」

「ああ、知っているよ。アーシャは安心して、ボクの背中にしがみついていてね」

 返事を返す代わりに、シシのモフモフの背中にしがみついた。シシにはわかったらしく「いまから、もう少し飛ばすからね」と、スピードをはやめた。

 シシは海沿いの町と村を通り過ぎ、私たちは目的のリポの森へとつく。リポの森の前でシシはスンと鼻を鳴らして森の様子を調べ、何も感じなかったのか森へと入っていく。

 シシのことは信じているけど、彼とチェルに危険が及ばないよう、私は杖を出してリポの森の鑑定をした。オールの森とは違い、この森の瘴気は薄く感じた、

「うそ、リポの森の瘴気が薄い……このまま、ドワーフの住処まで行きましょう

「了解!」

 移動はシシに任せて、私は簡単な瘴気を浄化魔法で払う。ここは海の神ポントスが守る森といわれているし、海沿いに住む漁師は――寮の安全と大量祈願に祭壇を作り、祈りを捧げている。

(瘴気が薄い。……ほんとうにあの祭壇へ祈りが効いているのかも)

 何度か祭壇への祈りを見にきたり、浄化のために何度か来たことがあるリポの森。その森の中を迷うことなく走るシシが。

「アーシャ、しっかり捕まって! いまからドワーフの住処に入る」

 と、言った。シシは止まらことなく、目の前に現れた大岩に向けて走り、その大岩に飛び込んだ。
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