浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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 シシは嬉しそうに私とチェルに、モフモフの顔を近付けスリスリした。同じように頬をすり寄せてこたえると。フェンリル同士のチェルはシシに、鼻ツンした。

「いいな、シシの家族は仲がいいことで……うらやましい。俺も帰ったら、トマに甘えるか」

「ああ、好きな人にはとことん甘えた方がいい。まあ僕たちの仲には負けるけどね」

「だよな。俺もトマに甘えたいし、トマを甘えさせたい」

 ウンウンと頷くシシ。

 シシとアギの意見は合致している。まあ私もシシに甘えたいし、シシとを甘やかせたいし、チェルを守りたい。

 私は――ただ静かにシシと出会ったカサロの森で、家族で仲良くおだやかに過ごしたい。

 ――たまに両親と研究結果を話したり、お茶をしたり、たまには旅行もしたいかな。

 

 洞窟の中を先に歩くシシの足が、奥にはいる手前で止まった。

「この先が正気が漏れた洞窟の奥だ! アーシャの魔法で浄化は終わっているが、なにが起きるかわからない――構えて!」

 合図を出したをシシは臨戦体制、アギは持ってきた枝を構え、私はチェルを抱っこしまま杖を握り、ドワーフのスノは斧を構えた。
 
「この奥の採掘穴から、毒霧が出たのじゃな」
「そうだよ。スノはその近くで倒れていた」
「浄化は終わっているけど、そこに何かいるわ」
「ああ、いるね」
「パパ、ママ、何かいる⁉︎」

 チェルにもわかるほどの、何かわからない力を持つ何かが奥にいる。シシはみんなに防御魔法をかけて、先に奥へと入って行く。

「え、なに⁉︎」

 驚くシシの声、そのあとに続いた私たちの前に現れたのは、金色の光に守るように包まれた黒い毛のワーグの子供だった。

「真っ黒な、オオカミの子?」

 瘴気幻影のワーグを見ていない、アギが呟いた。私はその隣で、あのワーグの子供だとしたら……と考えた。
 
「シシ、もしかしてその子……あなたが戦った、瘴気幻影のワーグの子供じゃない?」

「あぁ、その子のまとう力があのワーグと似ているから、そうみたいだ……あのワーグは子を守るために戦ったのか? だから僕と同じで強かったんだな」

 だとしたら、――いや、これは推測だけど。

 あの瘴気幻影のワーグはこの子を守るために戦った。この洞窟の穴の奥はどこかの洞窟と繋がっていて、そこに住んでいたワーグの家族がいた。しかし何かがあり、子供だけでもと、その子をお守り亡くなった。

 ただ、守りたいという気持ちだけが残った。死んでしまった骸から瘴気が溢れ、瘴気幻影となってしまった。そこをドワーフ達が掘り当ててしまった。

 そして、瘴気幻影のワーグが浄化され、守っていた子供だけ残ったのかも。
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