浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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 ドワーフの住処――リポの森から離れて、私達は北の方で原っぱを見つけて天幕を張り、早めの夕飯を食べている。

 今日のメニューは、ピヨピヨ鳥の塩コショウを振ってパリパリに焼いたソテーと、フライパンで焼いたパン。ちぎったレタスに、ドレッシングをあえたちぎりサラダだ。

(もう少し作りたかったけど、疲れているからあとは果物と薬草クッキーでいいわね)

「このピヨピヨ鳥のソテー、ピヨピヨ鳥の皮がパリパリで美味い!」
 
「ママ、この鳥をパンに挟んでもいい?」
「いいわよ。チェル、ドレッシングのかかっていないレタスで挟む?」

 チェルが「欲しい」と頷いたので、アイテムボックスからレタスを取り出してちぎり、魔法で出した水で洗いして、レタスを皿に盛った。

「多めにレタスをちぎったから、シシもパンに挟んで食べて」
 
「ありがとう、アーシャ」
「私も鳥のソテーをパンで挟んで食べましょう」

 残す浄化の森は北の森、マキロだ。マキロの森の深い樹林の中で滝が流れ落ち、人気の観光スポットになっている。だけど正気が溢れた今となっては、滝を見に行く人もいないだろう。

(マキロ森の近くの滝の街は、今どうなっているのかしら?)

 他の森とは違い、森の中に自然にできた複数のダンジョンもあり、その街は冒険者達で賑わっていた。王太子妃のとき森の浄化と視察で訪れたときに、そのダンジョンの話を聞いたりもした。

 夕食の片付けも終わり、明日のため早めに休もうとお友達のナナちゃんに手紙を書く隣で、寝支度をしているシシに。

「明日、マキロの森に行く前に、森の近くにある滝の街を見たいわ」

 と伝えた。

「滝の街に寄るの? いいよ、その街で人気のバナナタルトが食べたい」

「ボクも食べたい」
「わかった、みんなでバナナタルトを食べようね」

 明日は滝の街で、人気なバナナタルトを食べようとなった。


 +


 王城で聖女による、浄化の旅が始まろうとしていた。
 実際は騎士団にすべて任せて、聖女となったロローナ妃は浄化する森には行かず、馬車の中で待機する手筈になっている。

「私、ぜったい森には行かないから」
「ああ、大丈夫。ロローナは森に行かなくていい」

 ロローナは魔物が怖いし、ドレスが汚れるからと、王都近くの小さな森に行くのを嫌がる。明日から浄化の旅がはじまる、初めの森は北のマキロの森からだ。

「明日向かう、マキロの森の近くの滝の街に人気のバナナタルトの店があるよ」

「バナナタルト? そこまでタルトは好きじゃないけど、まあいいわ」

 聖女という肩書きがついたからか、歳をとったからか――ロローナは度を超えてわがままが酷くなった。王家の威厳のために――聖女と王太子妃が必要なルールリアは仕方がなく、ロローナのわがまま付き合っていた。
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