浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と幸せに暮らします。

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「可愛い、美人、なにより魔力量も完璧ダ! シシ、この人僕のお嫁さんにしたイ」

 シシにしがみついて泣いていたのに。いまはニッコリ、手を伸ばして私を連れて行こうとするテトを、シシは前足で踏んづけた。 

「フギャッ!」

「そんな事をさせるか! アーシャは僕の番だからダメだ。僕の可愛い子供も見えるだろう!」

「え? こどモ?」
 
 シシに子供がいると言われて、子フェンリルのチェルを見て、テトは目を丸くした。そして羨ましいのか、ジロジロぶしつけに見てくる。

「いいナ~、羨ましイ。シシの父上と母上も生きていたら、喜んでいただろうネ」

「ああ、喜んでいたな……いや、空の上で喜んで見ているさ」

 シシは森の隙間から見える空を見上げた。シシのご両親? そうだ、私はシシから両親の話を一度も聞いたことがない。シシが話さないから聞かなかったのもある。

「空の上でカ~。僕の父上と母上も見ているかなァ~」

「おまえの行動に、あきれながら見ているだろうな。テトの両親は厳格な人だったから」

「そうかナ?」ハハハッと笑い。
 テトは悲しい瞳をした。

「魔王のせいで、僕たちよりも上の者達は勇者によって滅ぼされた。人質を取られ無理やり、仲間にされていたのにネ」

「だが勇者は恨めない。彼らのパーティはすべてが魔王のせいだと知らずに、人々を守るために命を賭けて戦っていた」

「ああ、子供ながら見ていたヨ。彼らは必死に命を賭けて戦っていタ。反対に僕らの両親は……僕達子供を守るために、命が尽きる最後まで戦っタ」

 シシとテトは勇者を恨んでいない。
 その元凶を作った、魔王の復活は避けたい。

「僕は仲間と、新しく生まれた子供達を同じ目に合わせたくなイ。悲しい、当時を思い出す事もしてもらいたくなイ」

「ああ、僕もそうだ。僕には仲間がいないが、守りたい大切なモノがある。ぜったいに魔王の復活はさせない」

 シシと、テトがコクっと頷く。
 二人の意見は同じ。

「そうダ。さっき連れ去った女性が持っていタ、魔王の心臓のカケラを、どうにかして壊して仕舞えば復活しないよナ?」

 赤い髪のテトが言っていたピンク色の髪の女性は、もしかしてロローナさんじゃない? そうよね、近くにルールリア王太子殿下達もいるもの。

(でも、そのロローナさんがなぜ? 魔王の心臓のカケラを待っていたの? 私がいた時、王城に魔王の心臓のカケラが封印されているとか、そんな話聞いてことがない)

 ――だったら、彼女はどうやって魔王の心臓のカケラを手に入れたの?
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