婚約破棄されたのは、知らない間に精霊に愛されていたからでした!
 家庭教師が所用で部屋を出た隙にお菓子を食べてたんだけど、水差しに水がなかったからあのときは大変だった。
「もっとお話ししましょうか。部屋を脱走しようとして失敗してスカートが破れて……」
「わー!」
 私は思わず声を上げていた。これ以上言われたら恥ずかしくてあの世へ行ってしまうはめになるかもしれない。
「でも、どうしてここに……?」
「手厚い看護を受けた私は、恩返しをするために従者となってあなたにお仕えいたしました。そうするうちに、あなたに惹かれていったのです」
「え……」
 私は言葉をなくした。
「婚約者とやらがいるのを知って驚きました。人間の世界はめんどくさいシステムがあるものです。私は婚約を破棄させました」
「破棄……させた?」
「そうですよ。一度目も二度目も三度目も。あなたを愛するのは私だけで充分です」
 私は呆然とそれを聞いていた。
 ほかに好きな人ができたって言われて……。本当は違うということ?
 でも、どうやって彼がそんな根回しをできたのだろう。
「もと婚約者の彼らは非常に協力的でした。ちょっと話をしたら、すぐに破棄の頼みを聞いてくれましてね」
 私の疑問を悟ったかのように、彼は言う。
 どういう頼み方をしたのか、聞くのははばかられた。怖い答えが返ってくる気がする。
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