花の海駅より君に描く、“約束の花”が咲いたとき
ふたつの花
 ありふれた朝も輝いてゆくのは、あなたと音の葉が紡がれる刹那の時間。



 線香花火の光花が花開く時間(とき)のように。





 夜明け前に起きて、町の片隅にある古びた駅舎に向かう。そこへたどり着く前から、わかる。何故なら――遠目からもわかる鮮やかな花々の色彩に、風が運ぶ花の香。

 慣れ親しんだ、日常の光景がそこにはある。


 ここには、夜明けと共に走る《暁月》という電車がある。


 それに乗って、遠くにある物語の町へいく。言葉織や物語を愛してやまない者たちが夢見る場所であり、世界で一番大きな図書館が、立派な観光資源として重宝されている。


 売店で、花の蜜茶と香り高い花とチーズを挟んだサンドイッチを買う。


 美しい風景を眺めながら食べるのは絶品なのである。気分良くホームへ行くと、色褪せたベンチに少年がいた。



――“花”だ。


 ひと目見た瞬間、胸の奥夏の華が咲く。



 少年は、スケッチブックに夏の花を描いていた。素人目からしても目を引くものがあり、目を離せないで立ち尽くしていた時――顔を上げた少年の瞳とぶつかる。



 りんご飴のように紅い瞳が、じっとこちらを凝視してきた。

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