花の海駅より君に描く、“約束の花”が咲いたとき
花祭り
 夜明けと共に電車はゆっくり走りだす。


 今日は――アカシアも一緒だ。お互い好きに呼び、好きに話せばいい、と言ってくれた。


「これよかったら食べる?」

「今日はラッキーかも。食べ忘れもザラにあるし、描くことに夢中になると、世界が無音になるから」


 嬉しそうにサンドイッチを頬張るアカシアは、絵を描いていた時とはまるで、雰囲気が異なる。食べ終わった後はまた描き始め、狭い空間を沈黙が支配する。


 初対面なのに息苦しさはなく、心地いい沈黙。


「アカシアはどこへ行くの?」

「絵描きの旅人が集う町。ことはなは、物語の町だろう? あそこの図書館にはよく立ち寄って、調べものをよくした。最近カフェも併設されたらしいな」

「うん! 花をテーマにしたカフェなんだって、天井から季節の花を吊るしているみたい。よくSNSであがってるの見たよ。お茶の種類もたくさんあるの」

「へえ、いいな。よかったら一緒にいく? おれの誘いだからおごるよ」


「……いく! でもおごりはだめだよ」


「ことはなはケチだなあ」


「!?」



 スケッチブックに色がついたら、そこはもう異世界だった。 

 いつの間にか絵は完成していて、過去に描いたのも見てもいいと言ってくれた。絵本をめくるように――《古城に咲く朝顔》、《星空に散るネモフィラ》、《猫の背中にある秘密の向日葵畑》を旅してゆく。


 魔法の絵本は、瞳を美しく煌めかせてくれる。


 瞳の鏡に、星空を宿したかのように。


< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop