花の海駅より君に描く、“約束の花”が咲いたとき
 花祭り当日。

 花の海駅は夏の花であふれている。向日葵、朝顔、桔梗、百合、ブーケンビリア、どれも瞳を惹きつけるには十分だ。

 特別詳しいわけでもない自分が、珍しく必死に勉強して覚えた。浴衣もわざわざ買いに行って、自分の変化はきっと“アカシア”がもたらしたものだ。



――アカシアも花の名前。花言葉は《秘密の恋》、《魂の不死》。


 花から紡がれた花言葉は美しく丁寧に織られた、一片の物語のようだ。草花にも、野菜にも、それぞれ花言葉がちゃんとある。日常を生きていたら、通り過ぎてしまうようなものが。


 夏の陽ざしに薄っすらと汗をかく。簡単に匂い対策のケアセットを用意したが、それでも不安である。


 はじめて着た浴衣は母方の祖母が、甲斐甲斐しく手伝ってくれたおかげで、なんとか形となった。



 心が騒がしい。――期待と不安で。


 雑踏の中をかき分けて、大きめのトートバッグを持ったアカシアがたどり着く。


 
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