花の海駅より君に描く、“約束の花”が咲いたとき
 夏仕様のようなオレンジの明るい髪がまぶしい。


 手に持っているのは――青い朝顔。造花のようにも本物のようにも見えるそれは、精巧な作りで出来ている。こちらの視線に気づいたその人はカラッと笑った。


「俺は向日葵。ひまひまって呼んでな! あっくんとは、花をテーマに学ぶ学校で同じ組だったんよな〜。俺は花火を作って、あっくんは花の絵を描いてたの」


「そうだったんですね。でもなんで花火なんですか? 花は花でも結構やることが鬼だって、もっぱらのウワサですよ」


 花火は繊細で、力仕事も多く、先生もかなり厳しいと聞いたことがある。生徒から不評で、そのうち絶えてしまうのではと言われている。


「みんなで空見上げて“きれいだね”って言えるじゃん? みんなの手の中でも花が咲いて、笑顔になれる――それってすごいことじゃん?」


 向日葵のように真っ直ぐな想いには、アカシアと似たものを感じた。


「あっくん、これおまけ。彼女と遊んでよ。改良した新作花火! 今度感想聞かして」


 青い朝顔、夏の夜明けに咲く薔薇、白椿、蓮の花火を袋に入れて手渡す。花火のブーケを受け取ったアカシアはスケッチブックを。


「お前用に描いたやつ。いつも言ってただろ、おれの絵はいい刺激になるって」

 

 色褪せたスケッチブックの存在感は大きい。アカシアの瞳から見た花の世界観が、ここに美しく描かれているのだろう。

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