しるべ
鉛色
「わかりました。」

ーーあぁ 言ってまった
これでもう戻れない

頬に一筋涙が流れた。

「離婚に…同意します。」

喉が詰まる。
滲んだ視界から運転席の男がほっと肩を下ろすのがわかった。

ーーどうにかして
体の中にある苦しいものが蠢いている
今までの私に何か報いたい

「一つだけお願いを…」

報いたいと願ったからか口が勝手に動いた。
運転席の男がこちらを見た。
ぎゅっと両手に力を込めて今できる笑顔を顔に貼り付けた。

「最後はあなたと一緒のお墓に入りたい。」
口角が揺れる。

ーー今も思っている
嘘だと言って欲しい
あんなことにならなければ今年も同じ夏に貴方と笑っていただろうに

夏の暑い空に今までで一番間抜けな驚いた貴方の顔が見えた。
今年も同じセミの声だけが鳴っている。
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