しるべ
楓は駅に着いたものの困り果てていた。
ーーどんな見た目の子供か聞いておけばよかった

暗くなったロータリーをくまなく探していると
楓の目線の先に1人の男の子が現れた。

その子は帽子から見える栗色のふわふわの癖毛、
リュックに水筒を背負って
駅の階段を降りたあたりで周りを見回している。
不安そうにリュックの肩紐を手で掴み
キョロキョロしている。

楓はここにきてどうやって
確認するか迷っていた。
こんな時間に見知らぬ子供に
声を掛けるなど不審者すぎる
成人男性1人じゃなく、家族でいれば
声を掛けやすかったかもしれないと
今更後悔していた。
ポストの側で楓が頭を悩ませていると
声を掛けられた。

「あの…坂倉楓さんですか?」
楓が振り向くとそこには
先ほどの男の子が立っていた。
近くで見ると可愛い顔立ちなのがよくわかる。
楓は頭を抱えていた手を戻すと

「そうだよ。君は…」

「初めまして。坂倉柊斗です。」
男の子は帽子をとって頭を深々と下げた。
男の子が持っている水筒の名札にも
「坂倉柊斗」と
懐かしい父の字で書かれていた。

楓 梓 柊斗

ーーこの子の名前にも木編を使ったのか。
そこに父の覚悟を感じた。
この子を育てるという覚悟を。
ならば、『兄』としてこの子に接しようと
その時楓は決めた。

「初めまして。坂倉楓です。
君が弟の柊斗君だね?」
男の子は嬉しそうに明るく笑った。
< 100 / 117 >

この作品をシェア

pagetop