しるべ
露草色
どっぷりと日の暮れた山道の街灯は
心細くぼんやりと灯すに留まっている。
スコットは佳乃子を乗せて車を走らせている。

ここに来るまで
佳乃子を車に乗せるまで
スコットは一苦労だった。
佳乃子はスコットが同行することに
なかなか首を縦に振らなかった。

スコットは10年前に喫茶店木の家の前で
偶然に浩介と会った佳乃子の辛そうな顔が
頭から離れず
どうしても佳乃子を1人で行かせることは
スコットにはできなかった。

あの後本当は千鶴が温泉宿に来て
合流する予定だった。
佳乃子は自分の事情で温泉旅行を
台無しにしたくないと1人で帰ろうとしていたが
千鶴もスコットも事情が事情だから
1人で帰るのは反対した。
千鶴もスコットも以前の夏海襲撃事件で
肝を冷やしていた。


千鶴1人にしてしまうことに
佳乃子が躊躇していると
「孫を呼んでみるわ。孫も喜ぶわ」
と提案してくれたのだった。

旅館側にも急用で帰宅する旨と伝え宿泊分を支払い。
千鶴と千鶴の孫分の宿泊代金は佳乃子が払って宿を後にした。

急ぎの要件で車移動が時間短縮だったこともあり
佳乃子はスコットの同行を渋々了承した。

佳乃子はこの10年、
スコットにも千鶴にも
そして子供達にも浩介の話はしなかった。


「楓が柊斗くんを保護したって」
佳乃子は楓から電話を切った後、
スコットにそう話してから
窓をじっと見つめて黙っている。

何かと対峙しているかのように
窓に映る佳乃子の顔は真剣だった。
佳乃子の過去と向き合う沈黙を
スコットは見守るしかなかった。
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