しるべ
佳乃子は車の窓を見ながら
この先の事を考えている。

無事に保護されたと報告を聞いてから
このまま浩介の子どもと会っていいのか
佳乃子は自問自答している


浩介やその子どもと会うことは
10年前に置いてきた
自分の気持ちと対峙すること。
10年前の自分の気持ちと
対面することがやはり怖い。
あの心が凍てつくような感覚を
今も忘れられない。
その感覚を再び感じたくは無かった。
あの事で揺れ動く自分の心に
戻りたくはなかった。

それに浩介の子どもに会い、
1人の大人として動揺しないで
接することが出来るのかと
自分に不安を感じている

その二つが今更ながらに
佳乃子の中をぐるぐると渦巻いている

ため息が何度も身体から出ていく

ーーこれは考えていても仕方がないパターンだ
出たとこ勝負するしかない
ただ、子どもに罪はない
子どもを傷つけるようなことだけはしない。

腹を括った佳乃子は
答えの出ない自分の悩みのような
黒い窓を覗くことをやめた。

佳乃子は視線に気づいて顔を向けると
優しい顔のスコットがいた。
「ため息が沢山出たね。
気持ちはどう?落ち着いてる?」

「今は少し落ち着いてきた。」
怖気付いた気持ちをスコットに見透かされていた。
佳乃子は少し照れ笑いのような
笑顔をスコットに返した。
「大丈夫。佳乃子にはチズも私もいますからね。」

「うん。ありがとう。」
10年1人でやってこれた君は大丈夫と
そんな風にスコットに言われたような気がした。
佳乃子は座り直して背筋を伸ばし、
シャンと前を向いた。

迷っていた心が整った。

佳乃子は10年前の自分に
立ち向かう事を決めた。
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