しるべ
鉄黒
「ごめんなさい」
「僕のせいでお父さんと離婚してしまったのに」
「みんなを悲しませてごめんなさい」
「お父さんを返します」
柊斗は佳乃子の前で泣きながら頭を下げた。

ポタポタと涙が雨粒の様に封筒に打ちつけた。
悲しみを一人背負い
頭を下げる柊斗の姿は
か細く傷付いているように見えた。
それが時の止まった佳乃子の身体を動かした。


佳乃子は床で泣き崩れる柊斗を抱き上げ
頭を包みこむように強く抱きしめた。
考える前に体が動いた。


この事実で一番深く傷ついているのは
紛れもなくこの子だ
その傷に目もくれず
責任を感じ私達を心配しくれているのだ。
彼に何一つと責任はないのに。

「いっぱい…
私たちを心配してくれたのね。
大丈夫。謝らなくていいの。
柊斗くんのせいではないんだから。」
と繰り返し柊斗に話しかけ
背中を優しく優しく摩った。


嗚咽を漏らしながら佳乃子の胸で柊斗は泣いた。
その悲痛な鳴き声で何度も謝っていた。


柊斗は抱きしめられたことに安心して
暫くすると「ひっくひっく」と
肩を揺らす程度になり
気づくと佳乃子の胸で寝息を立てていた。
旅の疲れもあったのだろうよく眠っている。
柊斗の泣き腫らした瞼に
胸を締め付けられた。

「泣き疲れて寝ちゃったのね。
可哀想なことを言わせてしまった。
楓、お布団に寝かしてあげて。
梓の部屋にお布団があるわ。」

佳乃子は優しく柊斗の頭を撫でた。
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