しるべ
浩介は佳乃子に勧められ
の向かいのソファーに座った。

10年前と変わらないリビングがそこにあった。
この家を建てた時に佳乃子が選んだ家具達が
変わらずにそこにあった。

温かいリビングにしたいと
佳乃子は家具のひとつひとつにこだわっていた。
家具屋を何軒も回って集めたこの部屋は
浩介にとって思い出が多すぎる。


懐かしさの波に飲み込まれそうな時に
茶封筒を見つけて
その波は瞬時に引いていった。


ローテーブルを挟むように
設置されたソファーに
見覚えのある茶色の封筒が置いてあった。
封筒には「山城法律事務所」と書いてある


ーーこれは確か私の机に鍵付きの引き出しに
保管してあるはずのもの。

「どうして、これが…」
浩介が酷く驚いて声が詰まる。

「柊斗くんが持ってきたの」
可哀想なほどに浩介の顔は青ざめている。
封筒を手に取って中身を一旦確認し、
手で口を塞いだまま考え込んでいる。


「柊斗くんは」
佳乃子のその声に反応して
浩介は佳乃子を見た。

佳乃子は真っ直ぐ浩介の顔を見て伝えた。
彼があまりにも事実を聞くことに怯えていたので
ただあったことを静かに伝えた。

「私に謝ってきたの。
それからこの封筒を渡してきた。
柊斗くんは泣き疲れて寝たの。」

浩介は前のめりの姿勢で両手で頭を抱えていた。
身体から震えるような長い息を吐きだして
なんとか現実と向き合おうとしている。
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