しるべ
ピンポーン

顔を上げるとインターホンの画面には隣家の都さんが写っている。
都さんのコロコロとした笑顔が佳乃子の心を安心させてくれた。
私はそのまま玄関を開けた。

「こんにちは」
「あ、はい。回覧板。来月に側溝の掃除の案内。」
「ありがとうございます」
「あ、それとーこれ。いっぱいつくちゃったから。今年も食べて。」

都さんはカサカサ音を立てながらビニール袋から瓶を見せて言った。
「すみません。いつも、ありがとうございます。」
「いいーのいいーの。…じゃあ。またね」
手を振って都さんの後ろ姿を見送った。

ここに引っ越してからこの時期になると都さんのお手製苺ジャムをお裾分けしてもらっている。
ご実家がいちご農家の都さんのジャムは絶品。
子どもや浩介がいた頃にはあっという間にジャムがなくなっていた。
みんなの季節の楽しみのひとつだったな。

いつの間にか私1人になってるのね。
がらんとした冷蔵庫に赤いイチゴの瓶をしまった。
冷蔵庫のサイドポケットを見た。

ーーあれ、アレがない。

< 14 / 117 >

この作品をシェア

pagetop