しるべ
黄蘗色
5月の第二日曜日、都千鶴はニュータウンかなえの第一公園にいた。
今日は町内会の側溝清掃の日。
梅雨が始まる前に側溝を掃除するのが町内会恒例行事だ。
都は今年の町内会の役員をしている。手早くスコップや土嚢入れなどの用具を公園の広場に並べていた。
ーー午前中で終わらせないとね

「手伝いますね」
振り向くと佳乃子が上下ジャージの格好でこちらを見ていた。
「坂倉さん、おはよう」
「おはよう」

2人は午前中で清掃が終わるかしら、天気がいいわね等と話しながら用具を並べていった。
町内会長の簡単な挨拶が終わると、各々が持ち場に用具を持って作業を始めた。

清掃班が同じだった都と佳乃子は担当場所の側溝掃除に取り掛かった。
「昼になったら暑いからね。サッサと終わらせよ」
「長袖じゃ暑くなってきましたね」
佳乃子が袖を捲り上げると細い腕が見えた。

「坂倉さん。最近食べてる?」
「え?はい。大丈夫。この前貰ったジャム美味しかった。ありがとうございます。」
「それは良かった…」
ーー顔も青白いかしら?
都は一回り小さくなった佳乃子を心配そうに見つめる。

佳乃子は側溝の泥を懸命にスコップで書き出しながら話す。
「あぁ、父が亡くなってからちょっと食欲は落ちましたけど。大丈夫です。」
「そうなの。知らなくて…ごめんね。お父さん、寂しいよね。」
佳乃子がすくった泥を土嚢入れで受け取る都はすまなそうに話す。

「少しずつって感じで、こういうのは…時間薬で…」
汗を拭きながら話すと不意に後ろにふらりと倒れた。
「坂倉さん!」
都のおどろいた顔を見ながら佳乃子は気を失った。
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