しるべ
都がニュータウンかなえに越してきて3年たった頃、隣に坂倉夫婦が引っ越してきた。

引越しの挨拶に来た時可愛らしい佳乃子が笑顔いっぱいで挨拶してくれ、浩介はその後ろで優しそうに笑っていた。

いい人が隣に引っ越してくれたと都は思った。
坂倉夫婦が仲睦まじい姿を羨ましく思っていた。

ーー今時の人は干渉されるのが好きじゃないし

と、時々自作のジャムを届ける隣人としてのポジションを保っていた。
初めての子育てで楓くんが風邪をひいてあたふたしている時に良い小児科を教えた時や、梓ちゃんがが初めての小学校登園で後ろから見守る佳乃子と一緒にハラハラしたことも思い出した。
3年前、浩介は 1人で都家にやってきた。「単身赴任することになりました。もし何かあった時、力になってやってください。」と頭を下げに来た。
そんな暖かい心根の隣人家族に、こっちもほっこりしていた。

だが先日浩介が帰って来た時の様子が別人のようだった。いつもにこやかに挨拶してくれたのだが一瞥するだけだった。

それくらいから、庭先に出ても佳乃子に会うことがなくなり心配をしていた。

それで一度、自作の苺のジャムをいつもより早めに実家から仕入れ坂倉家に持っていった。
その時の佳乃子は笑顔だったが疲れの見える顔で何度「何があったの?」聞きたくて仕方がなかった。

ーーやっぱりあの時におせっかいでも話を聞いておけば…

都は病院の廊下でスマホを握りながら考えていた。
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