しるべ
あれから佳乃子は幾分か食事もとっているようで体調も良くなってきている。
と言うのも、都が毎日食事を作って持っていっているのだ。夕食は2人で食べておしゃべりに花を咲かせたり、駅前の喫茶店までお茶しに行くようになった。

あの日から見守りを返上しただのおせっかいおばさんは、佳乃子と過ごす時間が増えていた。
佳乃子も都と過ごす時間が癒しとなっていた。
2週間する頃には浩介からの離婚話を打ち明けるようになった。

「私に話すってことは…離婚しようと思ってるってこと?」
都は佳乃子と駅前の喫茶店「木の家」でアイスコーヒーを飲んでいた。
駅前唯一の喫茶店は夏になるに向け外壁に蔦が張って緑色の涼しげな外観になる。
60代の大木夫妻が営んでいる小さな喫茶店で、静かなマスターが美味しい軽食を作ってくれ接客は人当たりの良い奥さんが担当している。常連には旦那さんをマスター、奥さんを女将さんと呼んでいた。

カラコロとアイスコーヒーの氷をストローで突きながら決心を確かめるように頷いた。
「腹も立つし、不倫してたのは確実だし。
私がどんなに駄々こねてもきっと無理だと思う。
子どもがいるんじゃ…
離婚せずに認知だとしても、もう信頼して一緒に生活するのは難しいわ」
「子どもは…重いわ」
「この先、お金のこととか生活のこと不安だけど…元気じゃなきゃ、好きな事も出来なくなっちゃう」
「でも、泣き寝入りしないのよ!赤い車の女!すっごい腹が立つわ!出てこいや!ってなる」

「あら…赤い車ってミニバンの?」
お盆を抱えた女将が話しかけてきた。
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