しるべ
鉛色
佳乃子は千鶴と出掛けるようになってだいぶ体調が良くなっていた。

今日は雨が降っていたので掃除がてらリビングに飾ってある家族写真を片付けていた。
環境から前を向こうと浩介の写真を処分していた。

一つだけ佳乃子と浩介の大学時代の写真が飾ってあった。2人の明るい笑顔で並んでいる写真を見て、この浩介のキラキラした目が好きだったなーと思い出していた。

佳乃子と浩介は同じ大学で出会った。
春に飲食店バイトの先輩後輩の関係から始まって映画鑑賞が好きな2人の距離はあっという間に距離が縮まり、夏には恋人になっていた。

佳乃子は大学を卒業して得意の英語を活用できる会社に就職した。しかし就職2年したころ、先に就職していた浩介が新潟に転勤になりそれに合わせて私は寿退職した。
結婚した翌年には楓、2年後に梓が産まれた。

新潟から帰ってきた年にこのニュータウンかなえに家を建て、それからは二人で子育てに追われた。

そして浩介が3年前に単身赴任するまで何かと家族が集まる家だった。
いろんな困難を2人で話し合ったりぶつかったりして乗り越えて家族としての絆が強いと思っていた。


ーーこのまま平穏な人生を描いていたが神様はそれを良しとしなかったのかしらね。

佳乃子は浩介の写真をそっと段ボールに片付けた。

ーー後は家具の配置を変えたらもっと良くなるかもしれない。

こうでもないああでもないと家具の配置を考えているとLIMEの通知が鳴った。

ーー浩介だ。

冷たいものがお腹にずっしりと沈んで身体中がが凍りついていく感覚を覚えた。

浩介『来週末に話し合いたい。家に行ってもいいか?』

平静を取り戻すために深く息を吐いた。吸う息が小刻みに震える。
もう一度息をゆっくり吐いて返信をする。

佳乃子『わかりました。』


日時を決めるとスマホを置いた。
こんなことに負けたくない。
そう思って片付けに戻った。
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