しるべ
朽葉色
山城は晴香のLIMEを見ると、よしっと気合を入れて車に乗り込んだ。
山城は一山乗り越えたが、もう一山仕事が残っている。
どちらかというとこれからの方が財産等の分与になるので手続き的には山場になる。

運転席で浩介を待ちながら春香が持たせてくれた水筒の麦茶を飲み干した。
車内のエアコンの風は熱風がやっと冷風になった頃、助手席のドア横に人影が見えた。

疲れ切った顔の浩介だ。
若い女と過ごしていたら若返りそうなものだがこの前より老け込んだようにも見える。
浩介は軽く頭を下げると助手席に乗り込んできた。

その原因と思われる女が玄関をあけて怪訝そうにこちらを見ている。
妊娠後期といったところだろうか?大きなお腹が側から見ても妊婦とよくわかる。
浩介は女の様子に気づいていないのかいるのかわからないが、松永夏海の方を見ようとしない。

「松永さんて、絶対安静ですよね?大丈夫ですか?」
「えぇ…横になってる時もありますが動きたい時は動き回っていて。言っても聞かないですから私もよくわからんのです。」

ーーほう。先程の松永の様子といい、絶対安静の妊婦のようには見えなかった。
まぁ、人それぞれなのか。
浩介の家に無理矢理入り込むための方便なのか。

晴香が切迫早産で絶対安静と医師に言われた時は、何もしないで一日中安静にしていたことを思い出すと、後者のように思えてならなかったが口には出さなかった。

「じゃぁ、行きますか」
山城はハンドルを握り、どこかげっそりと見える浩介を乗せて車を走らせた。
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