しるべ
パーテーションの奥からはなんの返事もない。

晴香がすまなさそうにパタパタと
パーテーションを畳んだ。
そこには頭の上で手を組んだ楓が憮然とした顔でソファーに座っていた。

山城が視界に入ると楓は強めに睨みつけた。
「はかりましたね」


「ははは。約束を忘れててよ。
すまんすまん。俺も歳だな。やんなっちゃうなぁ」
後頭部をさすりながら謝っている。

その様子を見ていた楓が呆れ顔で立ち上がった。
「じゃ、俺も帰ります。用事ってこれですよね?」

「あ、うん。まぁ。…そうね。」
三文芝居の山城に晴香はたまらずバチンと
思い切り山城の背中を叩いた。

「いってー!」
山城は背中を反らしてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
晴香は「うんって言ってるじゃん!」と目をいつも以上に大きくして山城を叱る。

その様子を見て楓は強張った顔が緩まりふふっと笑った。
晴香も楓に合わせるように「もー。ほんとにいろいろとひどいよね。」と怒りながら笑った。
山城も背中を両手でさすって苦笑している。

「山城さんが言いたいことは大体わかりました。
お節介。…ありがとうございました。」
と楓は山城に頭を下げて帰った。

階段を降りる後ろ姿が重なった。
同じ後ろ姿に山城は「親子だな」と切なそうに呟いた。
< 51 / 130 >

この作品をシェア

pagetop