しるべ
洗朱
ニュータウンかなえの中央部に桜が咲く坂道がある。国道に抜けることができ交通が良い。
そして小中高の学校が通る通学路にもなっており
片道一車線に十分な歩道もついている。
その200メートルほどの長い坂道を
梓は何とか自転車で登り切ろうとハンドルと体を揺らしながら立ち漕ぎをしている。
身体の全筋肉を使い、一心不乱に電動がついていないプレーンな自転車漕いでいる。

坂の中程でペダルが前に進まず、失速し始めた。
「ハアハア」と息が切れるとついに足が地面についた。
梓は自転車のカゴにパンパンの買い物袋を乗せている。
今日の夕飯の食材だ。
料理が始まる前から既に体力が削られ、
ただでさえ苦手な料理のなのに出来栄えに不安が募っている。

高校生の頃自転車通学で何度も登っていた坂。
あの頃は一度も足をつけずに登り切れていたのに
日頃の運動不足を呪いながら再び坂を登り始めた。

車で買い物に行けばよかったと
自転車のハンドルを強く握り今更後悔していた。

坂下から時折強い秋の風吹き、
梓の背中を押し上げた。

自転車を押している間、
子どもを乗せた電動自転車の30代女性、
話しながらの電動自転車の女子高校生達が
どんどん梓を追い抜いていった。

梓はその背中達を羨ましそうに見送った。
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