しるべ
ーーあーやっぱり。電動自転車必須だわ。
今度自転車買いに行こうかな。


梓は坂道を振り返った。
桜の葉が赤く色づき上から見ると下まで赤い二つのカーペットのように流れている。

梓は坂道を見て家族を思い出していた。
小学校の入学式や高校の卒業式、
桜の花びらが舞う木の下を両親と一緒に通った。
小学生の頃は手を繋いでピンクのランドセルに
気恥ずかしさもありながらワクワクしていた。
父や母の笑顔が溢れていた。
ーーあの頃はみんな笑っていた。

今は思い出に懐かしい思いを
馳せてばかりはいられなかった。

父の不倫や離婚に
腹違いの弟が生まれたこと、
それに不倫相手の接触と
母は心身共に疲弊している。

不意に坂から風が吹き上がり、
おでこにじんわりとかいた汗を冷やした。
梓は前を向くと自転車を跨ぎ「よっし!」と
気合いを入れてペダルに足をかけた。

ーー家に帰ろう!


まだ自転車で登る!
電動自転車じゃなくても行ける!
と自分を鼓舞すると走り出した。

高い空に届きそうな気迫を見せた梓は家路へと向かった。
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