しるべ
リビングに暖かい木漏れ日が入って
長袖の上からもその暖かさを感じ取れる。

庭の色も暖色にくすみを重ねたような色になってきた。
11月の風が色付いた葉っぱを揺らしている。

佳乃子はダイニングでアールグレイを飲んでいた。
ベルガモットの香りが鼻を通り、心を穏やかにしてくる。
ただその顔にはこの数ヶ月間の疲れが
やつれとして刻まれていた。

佳乃子の目線の先には
キッチンで料理本を片手に苦戦している梓が居た。
佳乃子が椅子から立とうものなら
「いいからー。座っていて」
と、監視も付いているのだ。


佳乃子がふーっと肩を軽くすくめていると
足にふんわりとした感触に気づいた。
テーブルの下を覗くと
すずのかわいい白いしっぽが
優しく佳乃子の足に絡むように寄り添っている。

すずは佳乃子の気持ちを敏感に読み取り
いつも佳乃子から離れなかった。

佳乃子はすずの顔を覗き込みながら「ありがとう」と頭を撫でると返事のようにすずは目を細めた。

一通り撫でられるとすずは佳乃子の足元に座り込んで眠り出した。
そばにいるスタンスは変えないようだ。


そのスタンスを保っている人物がいた。
楓と梓だ。
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