しるべ
日が傾き始めた頃、楓も用事が終わって帰ってきた。
「早かったね。彼女とデートじゃなかったの?
そんなんじゃ振られちゃうよ。」
楓を出迎えながら梓が揶揄うように言った。

楓が「うるさいよ」と梓をお土産で小突く真似をした。
「おかえり」と言う佳乃子には「ただいま」とお土産を見せた。
「デパ地下のサラダに美味しそうなやつあったから買ってみた」
「美味しそうー」と佳乃子がお土産のサラダを見て喜んだ。


「ガシャン」

「あー危ない!
見て!でも大丈夫。割れてない。」

梓は落とした皿を掲げて戯けた顔をキッチンから見せた。
楓は「おいおい」とキッチンを覗き込んで
「手伝うわ」と仕方なさそうに腕まくりしてキッチンに入ろうとしたが
「私がするからいいの」
と怒って楓の背中を押してキッチンから追い払った。


佳乃子は変わらぬ子ども達の仲の良い姿をみて「小さい頃と変わらないね」と笑う。
こう言う時、佳乃子の心に温かいものが転がる。
それがたくさん集まって佳乃子を元気にさせてくれた。

ニコニコと笑う佳乃子の顔を見て楓と梓も笑った。
こんな日々を積み重ねて3人はゆっくりと日常を取り戻していた。
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