しるべ
買い物を済ませた後は最寄りの天野駅に向かった。
天野駅の駐車場はロータリーの中でも駅前にあり30台ほど停められる。ニュータウンかなえの住人はそこをよく使っていた。

佳乃子の乗る白の軽自動車駐車を一度自宅の塀に擦らせてからは駐車に細心の注意を測っている。
お世辞でも運転が上手いとはいえない佳乃子はロータリーのはずれにある郵便ポスト前の駐車場を定位置として使っていた。

郵便ポストは駅の反対にあるので先出の駐車場がいっぱいにならない限りは誰も使わない。佳乃子にとっていつも使える安心の駐車場なのだ。

いつものように郵便ボックスの前駐車場に向かうが赤いミニバンが停まっていた。

ーーあら、珍しい。
駐車場がいっぱいなのかしら。

駅前駐車場に目を向けるが、数台停まっているだけだった。

ーー運転が苦手なのね。

赤いミニバン後方に「child in car 」というステッカーを横目に佳乃子は渋々駅前の駐車場に停めに行った。

低速の安全運転で無事に駐車し、ほっと一息ついた。娘の梓は「お母さん、何年運転してるの!これぐらいで疲れすぎ」とお腹を抱えてケタケタ笑う姿を思い浮かべた。

ーー梓ならそういうわね。

この1人暮らしの間でこんな風に家族を思い出すことが増えた。

佳乃子がスマホを手に取ろうとすると助手席のドアが「コンコン」ノックの後にドアが開いた。

「お帰りなさい。」
佳乃子は助手席に乗り込む男に柔らかく笑いかけた。
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