しるべ
財産分与の取り決めは
だいぶ佳乃子寄りのものとなった。
ローン完済してある自宅と土地は佳乃子に。
今後手にする浩介の退職金と預貯金を同等のものと考えて預貯金は佳乃子の物
有価証券に生命保険は浩介となった。

家のローンを借りる際、
佳乃子の父が頭金を出したことに
義理立てしているのか、
自宅土地共に佳乃子の名義にすることを
強く望んだのは浩介だった。


ーー別れた女房への選別なのだろうか。
あの五月蝿かろう夏海を黙らせることは
骨を折ることだっただろうに。
それを思うと少なからず同情の念を抱く山城だった。


特に佳乃子は父の遺産の整理等もあり
直近の生活には困らないだろう。
そう考えると浩介の佳乃子寄りに合わせた
思いはこのまま佳乃子に気付かれずに
浄化されないだろうと思った。
それも仕方のないことだ。

佳乃子は缶コーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「洋ちゃん、また今度お菓子持って
事務所に遊びに行くね。
晴香ちゃんにもよろしく伝えて」
「おう、また困ったら電話しろ」
そう言ってと山城も立ち上がる。
佳乃子の軽やかな足取りに安心する山城だった。


枯れ草が舞う小道を歩きながら
山城は電話をかけた。
佳乃子に頼まれた最後の仕事をした。
佳乃子が離婚届を出したと浩介に伝えることだ。



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