しるべ
「わかりました。ありがとうございます。」
眉毛を一文字にして電話の相手に礼を言っている。
電話を切ると、今度は体を前に向け
テーブルに当たりそうなほど頭を下げた。


「申し訳ない。私のせいで辛い思いをさせている。」


浩介の前には楓と梓がいた。
3人は坂倉家のダイニングテーブルを囲んで座っている。


佳乃子が市役所に行っている間、
自宅に残った浩介の私物の処分と、
子ども達と話をする為に浩介は家に戻っていた。

楓は厳しい顔でじっと父を見つめている。
梓は下を向いている。
梓は小さい頃からお父さんっ子だった。
成人してもショックは強かった。

梓のその様子を横目に楓が口を開いた。

「母さんがどれだけ辛かったか。失望したか。
悲しんだか。わかってない。
謝って許されるものじゃないよ」

楓は父に対して厳しく言い退けた。
梓は心配そうな顔で楓を見た。

「許せることじゃないけど…
説明して…俺たちに話に来てくれたことには…
もちろん嬉しい気持ちじゃないけど。
俺の知ってる父さんらしくて…」

「何…それ。嬉しいって言ってる。」
梓が楓を見て呆れている。
「いや、安心!…安心したって感じ。俺らの知ってる父さんで。変わってなくて」
楓はバツの悪そうな顔だったが、
浩介に思いの丈を話した。

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