しるべ
楓は落ち着いた口調で父に話した。
「今は母さんが心配だから
母さんのことはそっとしておいてほしい。」

浩介はティッシュで涙を拭った。
「もちろん。何かあったら連絡は山城さんにお願いするよ。…お母さんはの調子どうだ?」
「最近は都さんと遊びに出掛けているよ。
もっと元気になったら働きたいらしい。」
「そうか。良かった」

「そろそろ、お母さんが帰ってくるかもしれないから。行くね。」
浩介は「ありがとな」と白い箱を二人に見せて、席を立つ。それに続いて楓、梓も席を立った。


玄関まで行くと浩介の靴のを枕にすずが寝転んでリラックスしている。
浩介は両手に持った紙袋を置き「いつもかわいいな」とすずの頭を撫でた。
なかなか動かないすずに、浩介が喜び半分で困っていると
その横に楓が大きな体でしゃがみこんで「すずおいで」と言っている。
それでも呑気に知らんぷりのすずに3人で笑った。


梓は後ろからその様子を見ていた。
小学校の頃毎朝二人で父を見送っていた懐しい朝の光景に被った。


楓がすずの頭を撫でると尻尾で床を叩きつけ、プイっと靴から離れた。
梓の足元まで行くとグイーンと体を伸ばしている。

「じゃぁ。」
至極簡単な言葉を残して浩介は家を出た。
楓と梓はいつかはわからない「また」で、父を見送った。
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