しるべ
浩介は天野駅にちょうど着いたところだった。
喫茶店から出てきた佳乃子に気付いて浩介も驚いている。
瞬時に佳乃子の笑顔が凍ったのが見えた。


銅像のように二人は向き合ったまま固まっていた。


ーーまさか鉢合わすなんて
と、佳乃子はかろうじて止まった思考で考えていた。


するとカランカランとカウベルの音と共に
タイラーが会計を終わらせて店から出て来た。
タイラーは上着を着ていない佳乃子を見て驚いていた。


「佳乃子さん?寒いねー上着来た方がいいよ。」
タイラーは上着を羽織って佳乃子に声を掛けた。


浩介はタイラーの声で我に返って
何も言わずに身体を駅に向けて歩き出した。


「お友達だった?」
タイラーは佳乃子に問いかけた。
「…いえ」そう言って佳乃子は
離れていく浩介の背中を黙って見ていた。


ーーこのままではだめだ
ここから抜け出せられない。
終わらせるために行こう。


「タイラーさん、楽しかった。
ありがとう。また。」

そう言ってタイラーに手早く手を振ると佳乃子も
駅に向かって浩介を追いかけた。

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